抄録
【目的】
脳血管疾患患者の急性期においては、積極的な理学療法として、早期の坐位練習や早期立位練習、早期歩行練習を行っていくことがその後の機能的予後がよくなるとされており、推奨されている。また、脳血管疾患患者の歩行能力獲得の予測に立位バランス能力を評価することが有益とされている。しかし発症早期の立位バランスを測定した報告やその経時的変化を調べた報告は少ない。今回、早期立位練習を行えた急性期脳血管疾患患者の立位バランスを重心動揺計により測定したので考察を交えて報告を行う。
【方法】
対象者は当院入院した脳血管疾患患者で理学療法を実施した立位が見守りで可能な症例6例。症例の平均年齢は70.7±12.8歳、男性5例、女性1例。右片麻痺4例、左片麻痺2例で下肢運動機能はBrunnstrom Recovery Stageで4:4例、5:2例であった。重心動揺測定は主治医より立位許可が出た日(初回)とその7日~10日後(2回目)の2回実施した。立位開始までの発症後期間は18.2±15.0日。初回時の歩行能力はFIMの移動(歩行)の項目で4:3例、5:3例であった。重心動揺測定は重心動揺計(アニマ社製グラビコーダーG620)を用いた。立位姿勢は前方注視、裸足、開脚位(左右足部間隔は両側の上前腸骨局間の距離と左右踵骨中央の距離が一致)とした。静的バランステストは開眼静止立位を30秒測定した。動的バランステストは前後方向最大動揺テスト、左右方向最大動揺テストを行った。静的バランステストでは麻痺側/非麻痺側の荷重率、総軌跡長、外周面積、麻痺側/非麻痺側の総軌跡長、動的バランステストでは総軌跡長、外周面積、左右方向最大振幅(XD)、前後方向最大振幅(YD)を算出した。測定結果の統計学比較は、1:各算出値毎に初回と2回目でウィルコクソン符号付順位和検定を用いて統計学的比較を行った。2:各対象者毎に初回と2回目でウィルコクソン符号付順位和検定を用いて統計学的比較を行った。の2種類を行った。
【説明と同意】
対象者に本研究の目的について説明を行い、同意を得た。
【結果】
初回と2回目の各算出値毎の比較では有意差を認めなかった。また各対象者毎の比較では2例で有意差(p<0.05)を認めた。静的バランステストでは総軌跡長、外周面積、麻痺側/非麻痺側の総軌跡長が減少した。動的バランステストでは前後方向最大動揺テストのYDが2例で減少を示し、左右方向最大動揺テストのXDが2例で減少を示した。
【考察】
各算出値毎の比較で有意差が出なかったことより、バランスの経時的変化を考える際、各算出値単独で経時変化を検討するのが困難であることを示唆していると考える。有意差が認められた2例で静的バランステストにおいて総軌跡長、外周面積、麻痺側/非麻痺側の総軌跡長が減少した。このことは静止立位ではより狭い範囲での重心制御を行えるようになったことを示しており、静的バランス能力が改善したことを示している。また動的バランステストでは全体的に算出値が減少しており、動的バランスは必ずしも経時的に増加するとは限らないと考える。これは脳血管疾患となり運動機能低下したため、それに適した動的バランスを獲得したと考える。今回、対象の下肢運動機能が比較的軽症で介助量も早期から軽度の症例となっており、重症例では結果が異なり、新たな検討が必要となると考える。今後、対象者数を増やし、重症例も対象者としていくことが必要と考える。
【理学療法学研究としての意義】
急性期において脳血管疾患患者に対し早期立位練習を行っていく際、立位のバランスがどう変化させていくかを考慮しながら理学療法をすすめていかなければならない。今回、発症早期の立位を重心動揺計によって測定し、分析した。その結果は理学療法効果を検討する際に大いに参考になると考える。