理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-070
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一般演題(ポスター)
JSS-Hを用いた高次脳機能障害の評価と転帰予測の可能性について
NIHSSにおける軽症例での検討
塚田 陽一上野 貴大堀切 康平松谷 実榎本 陽介強瀬 敏正青木 恭兵富井 美妃中浦 由美子荻野 雅史高橋 麻里子野内 宏之本多 良彦高松 浩
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抄録

【目的】2006年度の医療法改正に伴い、医療施設においては平均在院日数の短縮と共に、入院後早期に適切な転帰先の検討を行うことが求められている。当院は脳卒中急性期病院であり、転帰予測に際してはADL予後予測に有用とされるNIH Stroke Scale(以下NIHSS)を用い、そのscoreから軽症例(0≦NIHSS score≦6)、中等度例(7≦NIHSS score≦14)、重症例(15≦NIHSS score)の3群に分類し転帰予測を試験的に行っている。その中で、自宅退院が見込まれる軽症例において、回復期病院等への転院という転帰を辿った逸脱例を数例認めた。逸脱例についてその要因を調査した結果、身体運動機能は良好であっても高次脳機能障害を有する例が多かった。このことから早期に逸脱例を抽出するためには、介入初期での高次脳機能評価が必要であると考えられた。今回、Japan Stroke Scale Higher Cortical Function(以下JSS-H)を用いた高次脳機能障害の評価による、介入初期での自宅退院と他院転院の見極めの可能性について調査したので報告する。
【方法】対象は、平成21年5月1日から平成21年6月30日の間に当院に入院し、リハビリテーション(以下リハ)を開始した初回発症の脳出血・脳梗塞急性期患者のうち、初期介入時のNIHSS scoreにおいて軽症例に位置づけられる症例から除外対象を除いた7名(男性6名、女性1名、平均年齢62.9±7.15歳)とした。調査項目は、リハ介入から1週間以内に行ったJSS-H scoreと、転帰先とした。転帰先別にJSS-H scoreの平均点と評価項目別の得点を調査した。なお除外対象は、失語症を有する症例、病前から認知面の低下が疑われた症例とした。
【説明と同意】本研究の趣旨について本人もしくは家族に説明し、同意を得た上で検討を行った。
【結果】転帰先の内訳は、自宅退院は4例、他院転院は3例であった。JSS-H平均点において、自宅退院例は0.43±0.19point、他院転院例は10.27±9.35pointとなった。JSS-Hの評価項目別得点で比較すると、他院転院例は図形構成、類似性問題、注意・集中力、考えの切り替えにおいて特に高い得点を示す傾向を認めた。
【考察】JSS-Hの結果より、得点の高い症例において他院転院の転帰を辿る傾向を認めた。つまり、高次脳機能障害が強く疑われる症例は転院という転帰を辿る可能性が高いことを示し、早期の高次脳機能障害の評価結果から、介入初期の段階で自宅退院と他院転院の見極めの可能性を示唆すると考える。脳卒中患者の理学療法を行う上で高次脳機能障害の合併を認める場合、予後予測を左右することが多いため詳細な評価が重要である。しかし、発症後早期の患者に対し一般的な高次脳機能障害の評価を行うことは、評価時間を要すると共に患者への負担も大きいため困難な場合がある。今回用いたJSS-Hの利点として、比較的簡便に評価を実施することが可能であり、患者への負担も少ないことが挙げられる。また各種高次脳機能障害の評価バッテリーから必要な項目を抽出している。それに加え定量的な検査として、特に問題となりやすい項目については配点が高くなっている。本検討では、NIHSS scoreの軽症例に限局しているものの、比較的早期に短時間でJSS-Hを用いた評価の実施が可能であったことは、言い換えれば介入初期に、ある程度の高次脳機能障害の有無を客観的に評価できるということであり、臨床上においては非常に大きな意義があると言えよう。これらにより、JSS-H scoreを踏まえた転帰予測を行うことで高次脳機能障害の有無をある程度判別でき、より的確な転帰予測の一助になると考えた。しかし今回の報告は症例数が少ないため今後も引き続き調査を行い、症例数を重ねることでカットオフポイントの抽出や評価項目ごとの転帰に与える影響の度合いについて検討を行い、更なる的確な転帰予測を可能にしたい。
【理学療法学研究としての意義】現状ではJSS-Hに関する過去の報告はまだ少なく、今回の調査でJSS-Hが転帰予測に有用である可能性が示唆されたことは、今後の臨床・研究について有意義であると考える。

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© 2010 日本理学療法士協会
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