理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-071
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一般演題(ポスター)
足底反力計によるパーキンソン病患者の連続歩行解析
山内 真帆佐々木 彩乃小林 信義千葉 進野中 道夫井上 聖啓加藤 正道蕨 建夫
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抄録
【目的】パーキンソン病(PD)の症状には左右差があることが知られているが、歩行への影響についての報告は少ない。また、臨床における歩行分析の多くは観察により行なわれているが、全体像としての評価にとどまるっている。さらに、PDの歩行障害像を簡便かつ客観的に評価した報告も少ない。今回われわれはPDの代表的所見である固縮との関係性及びその障害像を力学的に明らかにすることを目的として、独自に開発した足底反力計を用いPDの歩行を定量的かつ経時的に評価した。
【方法】対象は整形外科的疾患及び神経疾患の既往がない健常成人14名(平均年齢28.5±12.1歳)とPD患者16名(平均年齢71.3±7.4歳、Hoehn&Yahr stageII~IV)であった。方法は、6個のひずみゲージ式荷重変換器(NEC三栄社製9E01-L42-500N,直径14mm厚さ4mm)を、両側の踵骨隆起内側突起部,第3中足骨遠位端および母趾中央の計6点にテープで固定し綿の靴下で覆った。3mの助走路を含む8mの直線歩行路を検者の見守下で自然歩行を実施した。圧センサーからの出力信号は、増幅器と200Hzローパスフィルタを介しレコーダー(TEAC社製LX‐10)に記録し、検査終了後各測定点をキャリブレーション補正した。この記録は、オフラインでシグナルプロセッサ(NEC三栄社製7T18A)により A/D変換し、パーソナルコンピューターへ転送した。得られたセンサーの値から各測定点について、圧力のピーク値を対象者の体重で除した%値(踵骨隆起内側突起部:%BWh、第3中足骨遠位端:%BWm、母趾中央:%BWt)を求めた。この3つの%BWについて1)健常成人とPD患者の比較、2)対象者毎の左右差について検討した。検定にはMann-WhitneyのU検定を用いた(p<0.05)。
【説明と同意】対象者には実施内容と研究の趣旨について説明を行い、同意を得た。
【結果】1)健常成人における平均値は%BWh4.41±1.16、%BWm4.45±1.95、%BWt1.70±0.76であった。これに対しPD患者は%BWh 2.73±1.44、%BWm3.11±1.48、%BWt1.31±0.94であった。特に、PD患者の%BWhの平均値は健常成人に比し60%程度だった。全ての測定点において統計学的に有意差を認めた。2)%BWh:有意な左右差を認めたのは健常成人で1名(7%)、PD患者は12名(75%)であった。%BWm:有意な左右差を認めたのは健常成人で8名(57%)、PD患者は11名(69%)であった。%BWt:有意な左右差を認めたのは健常成人で8名(57%)、PD患者は11名(69%)であった。健常成人では%BWh、%BWm、%BWt各々の関係性について一定の傾向は認めなかった。一方、PD患者では%BWhに左右差があるものの中で、より固縮の弱い側で高値を示したのは12名中10名だった。この10名のうち9名は%BWmに有意な左右差を認めた。この%BWmについて、固縮の弱い側に有意差をもって高値を示したのは9名中4名(45%)であった。また、%BWhに左右差を認めなかったPD患者は4名いた。このうち2名は経時的に%BWhが低下していくのと同時に%BWm、%BWtの値が上昇した。この2名は検査時に前方突進し歩行が破綻した例だった。
【考察】歩行周期におけるInitial ContactとLoading Responseは衝撃吸収と動的な安定性に寄与することが知られている。PDの歩行において%BWh、%BWmには左右差が認められ、さらに%BWhについては、固縮が歩行に影響している可能性が示唆された。この解析によりPDについて、歩行障害が軽度でも%BWhには左右差があることが示された。歩行障害が中程度になると、むしろこの左右差によって歩行の安定性と連続性が確保されている例があると考えられた。さらに、歩行障害が重度である2名について%BWhの左右差は無く、かつ経時的に数値が低下していくという結果が示された。この2名では踵接地による制動力を失い歩行が破綻したものと考えられた。PDの歩行における左右差は固縮を反映するとともに、補正としての役割も反映している可能性があり、PDの歩行分析では左右差に着目する必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】われわれの足底反力計は、PDの歩行障害を力学的視点から客観的かつ定量的に解析することできる。また、経時的に足底圧の推移を捉えることは歩行の安定的継続を評価するため有用である。したがって本研究は、PD患者に対し障害が軽度のうちからリハビリテーションの評価と治療戦略、効果判定などに用いることが可能で、臨床での歩行分析として意義があるものと考える。
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© 2010 日本理学療法士協会
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