理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-119
会議情報

一般演題(ポスター)
パーキンソン病患者および健常中高齢者における体幹・下肢筋の筋萎縮の違い
佐久間 香池添 冬芽小竹 里佳畑中 めぐみ沖西 正圭大田 恵坪山 直生市橋 則明
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【目的】パーキンソン病患者は健常者と比較して筋力発揮能力が低下しているとされており,この筋力低下は生活動作能力を著しく阻害する要因となる.しかし,パーキンソン病患者における体幹および下肢筋の筋萎縮がどの程度であるかを調べた報告はなく,健常中高齢者と比較してパーキンソン病患者における体幹・下肢筋の筋萎縮の特徴に違いがあるのかは明らかになっていない.
超音波診断装置は可搬性に優れており,非侵襲的で簡便に筋萎縮の評価が可能である.これまでに,超音波診断装置によって測定された筋厚値は信頼性が高いことや,筋力と相関を示すことが報告されている.そこで本研究の目的は,超音波診断装置を用いて体幹と下肢筋の筋厚を測定し,パーキンソン病患者と健常中高齢者における体幹および下肢筋の筋萎縮の違いを明らかにすることとした.
【方法】対象は健常若年者57名(男性31名,女性26名,年齢20.3±1.2歳,身長167.0±8.8cm,体重66.3±12.0kg),養護老人ホームあるいはケアハウスに入所している健常中高齢者9名(男性5名,女性4名,年齢73.2±5.5歳,身長156.6±8.3cm,体重51.7±9.5kg),当院入院中の歩行可能なパーキンソン病患者6名(男性3名,女性3名,年齢67.0±10.0歳,身長153.6±14.4cm,体重51.4±10.6kg,Hoehn & Yahr 重症度分類III以上,罹患期間2-20年)であった.
超音波診断装置を用いて体幹と下肢筋の筋厚を測定した.測定筋は右側の外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋,脊柱起立筋,多裂筋,中殿筋,大腿直筋,中間広筋,大腿二頭筋,腓腹筋,ヒラメ筋の合計11筋とした.外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋,大腿直筋,中間広筋は背臥位で,脊柱起立筋,多裂筋,中殿筋,大腿二頭筋,腓腹筋,ヒラメ筋は腹臥位で測定した.健常中高齢群およびパーキンソン群における各筋厚について,健常若年者に対する低下率(筋厚低下率)を求めた.各筋における健常中高齢群とパーキンソン群との筋厚低下率の違いをMann-Whitney U testを用いて比較検討した.統計学的有意水準は5%未満とした.
【説明と同意】本研究を実施するにあたり,対象者には研究の趣旨を説明し,同意を得た.
【結果】健常中高齢群とパーキンソン群との2群間で年齢,身長,体重の違いは認められなかった.各筋の若年者に対する筋厚の低下率は健常中高齢群とパーキンソン群でそれぞれ外腹斜筋が55.6±8.4%,52.1±31.4%,内腹斜筋が36.8±10.6%,55.8±23.6%,腹横筋が25.7±15.6%,17.0±88.3%,脊柱起立筋が28.9±16.3%,54.9±21.7%,多裂筋が26.1±13.2%,26.8±20.0%,中殿筋が41.7±18.4%,16.5±19.8%,大腿直筋が44.9±12.5%,40.3±14.4%,中間広筋が40.0±16.6%,38.1±19.8%,大腿二頭筋が52.4±16.3%,29.5±14.4%,腓腹筋が19.0±32.3%,22.8±40.0%,ヒラメ筋が1.4±28.2%,14.3±41.5%であり,健常中高齢群およびパーキンソン群ともに,ヒラメ筋の筋厚低下率が最も小さかった.
健常中高齢群とパーキンソン群との筋厚低下率を比較すると,脊柱起立筋では,パーキンソン群が健常中高齢群に比較して有意に大きかった.また,大腿二頭筋では,パーキンソン群が健常中高齢群に比較して有意に小さかった.外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋,多裂筋,中殿筋,大腿直筋,中間広筋,腓腹筋,ヒラメ筋については2群間で有意な差を認めなかった.
【考察】健常中高齢群とパーキンソン群ともに,体幹および下肢筋の中では,ヒラメ筋の筋厚低下率が最も小さかったことより,ヒラメ筋は加齢による筋萎縮の程度が比較的少ないことが示唆された.また,パーキンソン群では健常中高齢群に比較して脊柱起立筋の筋萎縮の程度が大きく,パーキンソン病患者では,不動や姿勢反射障害,それによる活動量低下などの影響を受けて脊柱起立筋の萎縮が進行している可能性があると考えられた.一方,大腿二頭筋では反対にパーキンソン群の方が萎縮の程度が小さく,パーキンソン病患者における日常の姿勢・動作パターンにおいて,ハムストリングスを使用する程度が比較的多い可能性があると考えられた.
【理学療法学研究としての意義】パーキンソン病患者と健常中高齢者との体幹および下肢筋の筋萎縮の違いを調べた結果,パーキンソン病患者では健常中高齢者と比較して脊柱起立筋の筋萎縮が大きく,ハムストリングスの筋萎縮の程度は少なかった.これらのことから,パーキンソン病患者の理学療法において,脊柱起立筋の筋萎縮が進行することに留意する必要性が示唆された.
著者関連情報
© 2010 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top