理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-153
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一般演題(ポスター)
脳梗塞急性期治療後の日常生活活動(ADL)の変化について
甲斐 有希高橋 博愛辻 義輝藤田 聡美
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抄録
【目的】
脳卒中は、要介護原因の第一位を占めており、患者数は依然増加している。そのうち、脳梗塞の急性期治療として、血栓溶解薬アルテプラーゼ(以下t-PA)治療が導入されたが、発症3時間以内に投与開始可能な患者に限られているため一般病院での使用頻度はまだ低い。昨年度、当院でのt-PA治療も数例である。一方、エダラボンは、本邦において広く使用され、脳梗塞、脳浮腫、神経症候、遅発性神経細胞死などの虚血性脳血管障害の発現及び進展(増悪)を抑制することにより脳保護作用が期待されている。しかし、重篤な腎機能障害を併発するリスクもあり14日以内の投与期間に限られている。エダラボン投与の有無や用量による帰結はmodified Rankin Scale (以下mRS)にて散見されている。mRSでは、症状をGrade0(全く症状なし)からGrade6(死亡)まで障害を分類しているが、日常生活活動(以下ADL)の表現が曖昧である。そのため、今回、Barthel Index (B.I.)を用いてエダラボンの投与期間の違いによるADLの改善をカルテより後方視的に調査した。
【方法】
対象は平成19年9月から平成20年8月の期間にエダラボンを投与し、リハビリテーション(以下リハビリ)を実施した脳梗塞患者75名とした。なお、入院中の再発、転倒により骨折等発症した患者、死亡退院の患者は除外とした。エダラボンは、主治医の判断により短期間で投与を終了することも考慮して使用されているため、投与期間7日以内をA群(27名)、7日以上14日以内をB群(48名)とし、年齢、性別、PT開始までの日数、在院日数、PT開始時B.I.(以下開始時B.I.)、退院時B.I.(以下退院時B.I.)を比較検討した。統計解析はJSTAT for Windowsを使用し、危険率5%未満で有意とした。
【説明と同意】
本調査は、個人が特定されないよう配慮し、院内倫理審査委員会の承認を受けて実施した。
【結果】
平均年齢はA群77.3±11.5歳、B群74.2±13.1歳、性別はA群女性11名、男性16名に対して、B群女性17名、男性31名。PT開始までの日数は、A群1.9±2.2日、B群1.8±1.8日で、在院日数はA群65.0±63.2日、B群64.8±54.0日となった。開始時B.I.はA群26.1±30.1点、B群41.6±28.8点、退院時B.I.はA群61.2±39.9点、B群73.5±31.4点となった。A群とB群との比較ではPT開始時B.I.(P=0.031)に有意差はあったが、その他の項目では有意差はなかった。mRSの変化は、A群はGrade5(高度の障害)からGrade3(中等度の障害)、B群はGrade4(比較的高度の障害)からGrade3(中等度の障害)となった。
【考察】
開始時B.I.に有意差が認められた要因として、意識レベルや重症度、主治医の判断による安静度の違いが考えられる。また、A群には、腎機能障害や合併症により全身状態不良により、エダラボン投与が継続出来なかった症例も含まれていたことも考えられる。脳梗塞の障害像は、多岐であり、かつリハビリ期間も長期にわたる。エダラボン投与により、脳神経保護作用や梗塞周辺領域血流量低下に対する抑制作用により、機能障害や生命予後の改善は期待できるものの、その後のADLは個々のリハビリの質や量に大きく左右されるのではないだろうか。両群において、退院時B.I.に有意差がない一つの要因として、両群ともに早期よりリハビリを開始したことではないかと考える。今回、治療薬のADLへの影響について、開始時、退院時B.I.のみの点数での調査を行ったが、在院日数にばらつきがあった。今後、脳梗塞患者のADLに及ぼす影響を、意識レベルや麻痺の重症度や高次脳機能障害等も含め調査を行っていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
今回、エダラボン投与期間による退院時のADLへの影響は認められなかった。脳梗塞は、新しい治療薬の導入とともに、生命予後が改善し重度の障害を有する患者もリハビリの対象になると思われる。重症患者に対しては、廃用を最小限に防ぎ機能回復に応じたリハビリを行うことが、その後のADLの改善につながると思われる。最近では、24時間以内に座位立位訓練を開始することがADLの回復に寄与されることが、海外の脳血管障害治療ガイドラインでも推奨されている。今後、主治医、多職種と連携しながら、重症患者にも早期リハビリを開始することがより重要と考える。
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© 2010 日本理学療法士協会
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