抄録
【目的】小児理学療法は対象児者に対して運動発達の促進、機能的動作の獲得、二次障害の予防を目的に実施し、加えて保護者に対して生活活動の援助方法指導も実施している。保護者指導の中で運動機能改善や変形、拘縮の予防を目的としたホームエクササイズ(以下家庭練習)を指導しているがその実施状況や保護者の負担感については理学療法士(以下PT)が個々に把握しているものの、その実態についての報告が少ない。そこで今回、保護者に対して家庭練習についてのアンケート調査を実施し、家庭練習の実施状況とその継続に関する実態を把握し、家庭生活との関連性を検討することにより、PTが今後指導する上での留意点について考察した。
【方法】対象は当園の通園施設利用者および外来PT利用者、市内大学病院と重症心身障害児者施設の外来PT利用者で担当PTが家庭練習を伝達している肢体不自由児者の保護者66名とした。このうち44名の有効回答が得られた。(有効回答率66.7%)調査は質問紙法で実施し、直接手渡し当日回収した。調査内容は対象児者や保護者の家庭状況やPT頻度、家庭練習の実施状況、家庭練習の必要性や負担感などであり、主に選択式で実施し、理由等については自由記載とした。保護者全員は家庭練習の内容を複数指導されており、頻繁にできている内容と頻繁にできていない内容の2群を、その方法の習得状況と実施しての効果の実感について、対応のないt検定を用いて検討し、有意水準を5%未満とした。
【説明と同意】対象児者と保護者に対し本研究の概要について書面をもって説明し保護者による同意書への署名にて同意を得た。
【結果】対象児者の年齢は0歳(10ヶ月)から25歳で平均年齢は6.34±5.57歳であった。年齢区分は「3歳から6歳未満」が17名(38.7%)と最も多く、次いで「3歳未満」が11名(25.0%)、小学生10名(22.7%)であった。主たる介護者は全員が母親であり、腰痛や肩こりなどの体調の不良を訴える者が26名(59.1%)であった。また他家族からの介護の手伝いについては「よく手伝ってくれる」が20名(45.5%)、「時々手伝ってくれる」が19名(43.2%)であった。さらに家庭練習を実施する者は母親が42名(95.5%)を占め、その練習の実施頻度は「ほぼ毎日」が26名(59.1%)、「週に4回」が9名(20.1%)、「週に2回」が6名(13.6%)、「週に1回」が2名(4.5%)であった。さらに1日の実施時間は15分が10名(22.7%)、30分が17名(38.6%)で、1時間以上の実施が10名(22.7%)、5分以下が7名(15.9%)であった。練習時間については「3歳未満」から「小学生」にかけて減少傾向であった。家庭練習の必要性については「すごく感じる」が41名(93.2%)で残りが「少し感じる」を回答した。「実施状況をPTが聞いてくれたか」の問いに「頻繁に聞いてくれた」「時々聞いてくれた」が43名(97.7%)、「実施状況についてPTが褒めてくれたか」に対しては「頻繁に褒めてくれた」「時々褒めてくれた」が42名(95.5%)であった。家庭練習の負担度は「感じる」傾向が19名(43.2%)で「全く感じない」が12名(27.3%)であった。実施できない時の焦りやストレスについては「感じる」が26名(59.1%)で「全く感じない」が5名(11.4%)を示していた。頻繁にできている内容とできていない内容の2群は習得状況および効果の実感ともに有意な差がみられた。
【考察】今回の調査により家庭練習の多くは母親が実施しており、家事全般に加えた家庭練習の実施は大きな負担と考える。しかし実際は家庭練習の頻度が「週4回以上」の高頻度に集中し、30分以上の時間をかけているものも6割強であり、積極的に家庭練習に取り組む姿勢が認められた。さらに練習時間と子どもの年齢との関係性については、「小学生」までは練習時間の平均は年代とともに減少しており、急激な家庭環境の変化と相俟って、現実的な時間の確保の困難さがみられた。このような状況で家庭練習の負担感や練習実施におけるストレスなども半数近い数字で感じているものの、「全く感じない」者もおり、家庭練習による子どもの成長や運動機能の改善への期待が推測される。頻繁にできている内容とできていない内容の差は、簡便に習得できる練習方法を指導することの重要性と、効果を保護者に実感させることが家庭練習への取り組みにつながることを示唆する。さらに家庭練習はあくまでも理学療法士的な役割を担わせるものではなく、家族と子どもの関わりを多くするための手段であり、そのためのプログラム作りが求められているものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】本研究は対象児者とその家族の生活を捉え、それに基づく理学療法への展開の幅を広げるものとして意義あるものである。