理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-072
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一般演題(ポスター)
生態心理学の概念を基にタオルを用いて立位の姿勢制御を改善させた症例報告
真下 英明冨田 昌夫
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抄録
【目的】今回は機能的姿勢変化に対するアプローチとして,タオルの特性(アフォーダンス)を利用し,自身の中心軸を能動的に探索し知覚してもらうことにより姿勢制御機能が改善したと考える症例を経験したので報告する.目的は,様々な要因で立位姿勢が変容し,非対称な足底荷重となっていてもそれに気づかず,また修正ができない症例らに対し,目的とする立位姿勢で制御に関わる神経系・筋骨格系に動きの中から対称な足底荷重を知覚してもらうことで,姿勢制御を獲得させる.

【方法】タオル(縦72cm×横33cm)を床に引き,左右1/4のところで上にたわみを作り,そのたわみが足底縦中心軸に合う様にタオルの上に立ち,全身が写る位置に鏡を置く.運動条件は股関節の内外旋運動を出来るだけ早く行うことと鏡で両足部の動きの大きさと速度が同じになるようにコントロールすることを要求した.1回の治療時に内外旋往復運動を50回(症例によっては途中休憩を入れることもあった)とし,週2回実施した.今回の発表ではこのアプローチをタオルエクササイズ:TEという用語を用いる.TEの効果の検証は,介入前後について立位姿勢の画像を撮影して変化を比較し,酒井医療株式会社製Static Balancerを用いて1分間・200Hzで静止立位を計測し,左右下肢の荷重標準偏差を算出して重心の動揺性を定量化した.

【説明と同意】今回の発表および情報の利用について,両症例に説明をおこない同意を得ております.

【症例】症例1:左股関節全置換術後左THA術後(96日目)他院より紹介.左下肢の筋力低下と左腰部の筋硬結と腰部痛が主訴.立位姿勢は重心が右側に変位し,その姿勢調整として左肩甲帯が緊張亢進を呈し,内転・挙上していた.また体幹の右傾斜に対し左下肢がカウンターウェイトとして活性され,その影響から左腰部筋群にストレスが生じ腰部痛につながったと考えた.症例2:脊柱圧迫骨折後腰部痛既往歴に2度の圧迫骨折があり,機能的側彎症に伴う左腰部痛にて当リハに依頼となった.胸部・骨盤帯が右変位を生じ,左足底が床から離れ,何かにつかまっていないと立位が保てない状態であった.症例1と同様の条件によって,腰部痛が生じていたと考えた.

【結果】TE前後での荷重標準偏差は,症例1で53%,症例2は38%低下し,重心の動揺が小さくなっていることが伺えた.また月単位の経過においても数値は減少を示した.TE前後での姿勢は,上半身の片側への傾きが減少により片側足底荷重が軽減し,姿勢変化による左肩甲帯周囲の過筋緊張が軽減した.腰部痛は両症例とも介入後1週間目で消失または軽減を示した.

【考察】今回の2症例が足底感覚や認知機能に問題がないにも関わらず,支持基底面に対し代償的筋収縮を伴った不均衡な両足底荷重と姿勢を呈していてもそれに気付くことができずにいたのはボディイメージの障害が原因であったと考える.症例1は,長期間の左股関節痛によって生じ,症例2では,圧迫骨折による器質的変形による身体質量分布の崩れが影響したと考える.ボディイメージの可塑的変容には,自らが環境に能動的活動によって働きかける経験が重要とされ,環境との相互性という点でアフォーダンスを利用してボディイメージを更新することで新たな姿勢や運動制御が獲得されると考える.TEは目的とする立位姿勢において支持基底面内に重心の投影点を維持しつつ,身体各部をダイナミカルに変容させ,制約を利用して両足底の荷重を平均化する身体の自己組織化を創発させることをイメージして考案した.タオルの利用は,床と足底との摩擦を軽減するアフォードを提供し,運動に努力を必要とせず出来る限り早く動かすことを可能にし,また両足底の動きの探索活動を容易にすることを許していると考える.結果からもTE前後で動揺性と姿勢に改善を認めた.長期経過では様々な要素が加わるためTEの効果としては可能性に留まるが,こちらも経過と共に改善を示した.今後も症例を増やし効果について検証をすすめ,また足底感覚障害者や片麻痺者においても導入できるかを検討していきたいと考えている.

【理学療法学研究としての意義】実際の臨床現場や訪問リハビリテーションにおいて,直ぐに手に入る道具(タオル)によって腰部痛や転倒と関連の深い姿勢を改善できる方法として可能性がある.
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© 2010 日本理学療法士協会
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