理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: Sh2-022
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主題演題
変形性膝関節症の歩行時外部膝関節内反モーメントと下肢筋力との関係
木藤 伸宏山﨑 貴博岡西 奈津子小澤 淳也新小田 幸一阿南 雅也金村 尚彦
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抄録
【目的】日本は高齢社会に突入し,内側型変形性膝関節症(膝OA)は,歩行能力の低下をきたし,生活機能に著しい影響を及ぼす疾患である。膝OAの発症と進行の危険因子として,歩行時の外部膝関節内反モーメントの増加が注目され,理学療法ではそれを減少させることが求められる。そこで本研究は,理学療法として介入しやすい下肢筋力と歩行時の外部膝関節内反モーメントとの関係を明らかにすることを目的に行った。
【方法】被験者は,片側性または両側性内側型膝OAと診断された女性38名38肢(41~79歳)であった。X線写真画像に基づき,Kellgren-Lawrence分類にて1または2に分類された20名20肢を軽度膝OA群,3または4に分類された18名18肢を重度膝OA群とした。片側膝OAでは罹患肢を,両側膝OAではより疼痛が強く,かつX線写真画像においてもKellgren-Lawrence分類でより重症度の高い肢を計測肢とした。比較のために健常女性10名20肢(49~64歳)を対照群とした。
歩行時の外部膝関節内反モーメントは,床反力計(AMTI社,Watertown)と三次元動作解析装置Vicon MX (Vicon Motion Systems社,Oxford)を用いて計測した。サンプリング周波数は100Hzであった。外部膝関節内反モーメントの値は体重で正規化し,立脚時間の積分値,立脚初期両脚支持時間の積分値,単脚支持時間の積分値,立脚後期の両脚支持時間の積分値を求めた。外部膝関節内反モーメントの積分値は,5歩行周期の平均を代表値とした。
膝関節伸展,股関節伸展・外転・内転筋力は,等尺性最大筋力を徒手筋力計μ Tas F-1 (アニマ社, 東京)を用いて最大等尺性筋力を測定した。測定は十分な練習を行った後に行った。測定値は,回転中心とセンサーアタッチメント中央部までの距離をアーム長と,センサから得られる力の積であるモーメントを算出し,体重で正規化した。
対照群,軽度膝OA群,重度膝OA群の筋力の比較には年齢を共変量とし,共分散分析を行ったのちTukeyの多重比較法を用いた。また,要因分析には,対照群,軽度膝OA群と重度膝OA群を一群とした群それぞれでStepwise重回帰分析を行った。なお,p<0.05をもって有意とした。解析にはSPSS 15.0 J for Windows (エス・ピー・エス・エス社,東京)を使用した。
【説明と同意】研究の実施に先立ち,広島国際大学の倫理審査委員会にて承認を得た。なお,すべての被験者に研究の目的と内容を説明し,文書による同意を得たうえで計測を行った。
【結果】重度膝OA群と軽度膝OA群の膝関節伸展筋力,股関節伸展・外転・内転筋力は,対照群よりも有意に低かった。重度膝OA群と軽度膝OA群の間には,有意な差はなかった。健常群では,股関節内転筋力は立脚・立脚初期両脚支持・単脚支持の外部膝関節内反モーメントの積分値,股関節伸展筋力が立脚後期両脚支持の外部膝関節内反モーメントの積分値に影響を与える要因であった。膝OA群では,股関節伸展筋力が立脚・立脚初期両脚支持・単脚支持・立脚後期両脚支持の外部膝関節内反モーメントの積分値に影響を与える要因であった。
【考察】本研究は,対照群は,股関節内転筋力が大きい者ほど歩行時の外部膝関節内反モーメントの積分値が小さくなり,膝OA群では,股関節伸展筋力が大きい者ほど歩行時の外部膝関節内反モーメントの積分値が小さくなることが示された。これらの筋力を発揮する筋は前額面の姿勢制御に重要な役割をなし,股関節を通じて骨盤と体幹を安定させ,膝関節の力学的挙動に影響を与える。これらの筋に筋力低下があると,歩行時に股関節に対する骨盤と体幹の安定を得ることがむつかしくなる。立脚期では骨盤と体幹の質量中心は,支持基底面より遊脚肢側にあるため,それらは遊脚肢側へ傾斜する回転する力が働き,大腿骨も脛骨に対して鉛直位の保持が困難となると考えられる。そのため膝関節中心点から床反力作用線に降ろした垂線が長くなることにつながり,立脚期の外部膝関節内反モーメントの積分値の増加を引き起こしたことが,本研究結果に反映したと推測される。
【理学療法学研究としての意義】 本研究の意義の一つ目は,膝OAでは従来報告されてきた膝関節伸展筋力だけではなく,股関節伸展・外転・内転筋力にも対照群と比較して有意な低下が起こっていることを示したことである。
二つ目の意義は,立脚期,初期両脚支持期,単脚支持期の外部膝関節内反モーメントの積分値を減少させるためには,予防のためには股関節内転筋力,進行防止のためには股関節伸展筋力に着目した運動療法を開発する必要性を示したことである。
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© 2010 日本理学療法士協会
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