理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O1-131
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一般演題(口述)
超音波画像診断装置による経過観察の有効性について
第3中足骨疲労骨折の一症例を通して
山本 昌樹稲葉 将史岡西 尚人
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抄録
【目的】骨折の修復状態を確認する手段としては、単純X線やCTなどの画像所見、叩打痛や圧痛などの理学所見が一般的であるが、治療中にリアルタイムでかつ確実な確認手段とは言えない。近年、骨折の状態や修復状態を確認する手段として、超音波画像診断装置の有効性が報告されている。本症例においても超音波画像診断装置により骨折の修復状態が確認(経過観察)でき、運動負荷量の設定にも有効であったので報告する。
【症例紹介】小学校6年生の男子、スポーツは週3~4回の頻度でサッカーを行っている。サッカーの試合中に右足の痛みを自覚し、試合後に跛行を認めた。他院にて「骨膜炎」の診断にて消炎鎮痛剤を処方されるが疼痛が治まらず、受傷3日後に当院を受診した。右足部中央から外側に腫脹を認め、第3中足骨小趾側に圧痛を認めた。単純X線画像において、第3中足骨の骨折が確認され、身体機能の維持・改善ならびに足底挿板作製目的にて理学療法が開始となった。
【説明と同意】症例ならびに保護者に対して本発表の主旨を説明し、発表の同意を得た。
【経過および結果】初回理学療法時、主訴は「歩行、ランニングおよびボールを蹴った時の痛み」であり、足趾の他動伸展ならびに第3中足骨への伸展ストレスにて疼痛を認めた。歩行は、右下肢内旋位にてKnee-out Toe-inのアライメントを示し、Toe off時に疼痛を認めた。身体機能としては、腹直筋、腹斜筋、腸腰筋、中殿筋の筋力がMM4レベルであり、立ち直り反応の低下、デュシャンヌ歩行などの股関節および体幹機能低下を認めた。フットプリントにて、後足部回外と凹足傾向であることが確認された。前足部の横アーチを保持すべくテーピングで固定すると、歩行時痛が軽減した。理学療法開始1週後に足底挿板を作製し、歩行時痛は消失した。足底挿板作製3週後には、爪先立ちや軽いジョギング程度での疼痛を認めなくなった。この時の超音波画像では、骨折部の不整とギャップを認めた。足底挿板作製5週後には、骨折部の圧痛がほぼ消失し、運動時痛を認めず、サッカーボールも蹴れるようになったため、理学療法を終了した。超音波画像にて、骨折部の不整とギャップの消失を認めた。またこの間、再発予防と身体機能向上を目的に股関節・体幹機能を高めるべく、筋力強化やバランスエクササイズも行った。
【考察】通常、骨折の修復状態を確認するのは単純X線による画像所見を用いるが、放射線被爆などの問題から多用することは困難であり、必ずしも仮骨形成の状態が十分に把握できるとは限らず、何よりも理学療法士が扱える診断装置ではない。超音波画像診断装置は、主に軟部組織を対象とした診断装置であるが、非侵襲的で簡便かつリアルタイムに観察部位の状態が把握できる。軟部組織の損傷程度、骨折部周囲の血腫、腫脹や浮腫の程度や大きさが確認できるとともに計測が可能で、ドップラモードを用いれば炎症の有無や状態が確認できる。また近年、骨折の状態や修復状態を確認する手段として、超音波画像診断装置の有効性が報告されている。本症例においても、足底挿板作製3週後には、爪先立ちや軽いジョギングでの疼痛を認めなくなったものの、超音波画像において骨折部の不整やギャップを認め、仮骨形成が不十分であることが確認された。そのため、疼痛のない範囲での軽い運動は許可するものの、スポーツ(サッカー)の復帰とはならなかった。足底挿板作製5週後には、運動時痛、圧痛ならびにボールを蹴る際の痛み(直接的な叩打痛)も消失し、超音波画像にて骨折部の不整とギャップの消失を認め、仮骨形成が十分で骨折修復が図られたと判断し、スポーツ復帰に至った。その後、疼痛の再燃が生じていないことからも、超音波画像診断装置を用いたことは有効であったと考える。これまでの手法のごとく、時間的経過とともに単純X線画像所見や疼痛を主体とした主観的所見に加えて、他覚的所見でありつつ非侵襲的で簡便かつリアルタイムに観察部位の状態が把握できる超音波画像診断装置を用いることは、治療方法や治療方針の決定、負荷量や荷重量の設定において根拠と自信につながることが本症例を通じて理解することができた。
【理学療法学研究としての意義】本発表は、理学療法の臨床場面において、非侵襲的で簡便かつリアルタイムに観察部位の状態が把握できる超音波画像診断装置が、組織の損傷状態および回復状態、負荷量や荷重量の決定、治療効果や治療方針の設定などのあらゆる場面において、その根拠として有効であり、理学療法のあらゆる場面で使用できる可能性を示すものと考える。超音波画像診断装置は、理学療法を進める上で身体内部の構造を視覚化することによって、多大な情報提供とともに有効性を確認できるツールであり、Evidence based Physical Therapyにつながる有益なツールとなり得ることを示したものである。
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© 2010 日本理学療法士協会
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