理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O1-138
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一般演題(口述)
長期にわたって運動療法を行った変形性膝関節症の一症例
山本 圭彦浦辺 幸夫福原 千史
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抄録

【目的】変形性膝関節症(以下、膝OA)は関節軟骨の退行性変化と増殖変化を主体とする疾患である。膝OAは進行性の疾患であるため経過に関する長期的なデータは重要と思われる。長期的な治療効果を検証した研究は、5年程度の経過観察を行ったものが多い。本研究の目的は運動療法を11年間継続して実施した症例について治療経過を示し、疼痛、体重、大腿四頭筋筋力、関節可動域の推移、歩行と大腿四頭筋筋力の関係等について検討した。
【方法】以下に、今回とりあげる症例の運動療法の計画を示す。症例は当初65歳(現在76歳)の男性で身長は173cm、体重は86kg、BMIは27.1kg/cm2であった。診断名は両変形性膝関節症で、主訴は歩行時痛であり、右膝の訴えがより強かった。レントゲン所見としてKellgren/Lawrenceグレードは右膝2、左膝2で内顆間距離は3横指の内反変形を呈していた。疼痛は歩行時の立脚期に両側の膝関節内側裂隙に生じていた。歩行は自立していたが、長距離歩行は好まれず極力避け、移動手段は傍ら自転車を使用していた。定年退職をきっかけに運動療法を開始し、疼痛軽減とADL維持を目的とした。運動療法は20分間のプログラムを週に5回設定した。内容は膝関節の関節可動域エクササイズと股関節周囲および大腿四頭筋の筋力トレーニングおよびバランスエクササイズとした。評価項目はVisual Analogue Scale(以下、VAS)と膝関節の関節可動域、大腿四頭筋筋力および10m歩行時間とし毎月測定した。大腿四頭筋筋力の測定にはPower Track 2(J Tech Medical社製)を用いて椅座位にて膝関節屈曲90°での等尺性最大筋力を測定した。また体重減少を目的に運動療法とは別に60分間のプールでの水中歩行を指導した。分析には各項目において初期時と11年後を比較し、さらにそれぞれ経年的な変化を11年間にわたってまとめた。
【説明と同意】発表に先立ち対象に説明を行い、紙面にて同意を得た。なお、福原リハビリテーション整形外科・内科医院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号023)。
【結果】運動療法の実施頻度は平均5.1回/週(11年で2681回)であり、プールでの水中歩行回数は5.0回/週(2605回)であった。体重は86kgから75kg(BMI;25.1 kg/cm2)と減少した。初期時の歩行時痛のVASは右側5、左側4であった。膝関節可動域は屈曲で右側100°、左側100°、伸展は右側-10°、左側-10°であった。大腿四頭筋筋力は右側180N、左側202Nだった。10m歩行時間は8.82秒、歩数は20歩であった。11年後のレントゲン所見は両側ともにグレードに変化はなかったが、内側関節裂隙の狭小化が進行した。VASは右側4、左側3と疼痛は軽減した。左側と右側の疼痛の関係は11年間中変わることなく右側の疼痛は左より強かった。屈曲可動域は右側114°(+14°)左側120°(+20°)とそれぞれ拡大し、伸展可動域は右側-18°(-8°)、左側-21°(-11°)と逆に減少した。大腿四頭筋筋力は11年間に渡って継続的に向上し、右側283N(+57.2%)、左側は290N(+43.6%)となった。10m歩行時間は9.51秒(-0.68秒)と遅延し、歩数は24歩(+4歩)と増加した。自転車による移動は継続できている。
【考察】11年間の運動療法によりレントゲン所見のグレードは増悪しないまでも狭小化は進み変性の進行を認めたが、期間内にわたって疼痛は軽減し、運動療法の効果を示せたと考える。本症例での経過で特徴的なことは大腿四頭筋の筋力向上し続けたことと体重が減少したことである。当院に通院する8名の膝OA患者の4年間の経過では体重の減少は認めず、高齢者では体重を減少させることは難しい。水中歩行を継続したことが体重の減少につながり疼痛の緩和にもつながったと考えられる。膝関節可動域は、屈曲可動域が拡大したのに対して伸展可動域が減少していた。膝OAの術中所見をまとめた研究では関節変性は後方部より前方部で強く生じていると報告されており(Jones、2002)、本症例でも前方の関節面の変性が進んで伸展可動域が減少したのではないかと考えた。筋力は向上できたが、歩行時間は延長し歩数も小刻みなものとなった。もともと長期的な歩行を避ける傾向にあったが、歩行経験は徐々に減少し、加齢に伴う平衡機能低下もこれに加わったと考える。11年間経過しても何とか歩行能力は維持できており、自立を高めた。膝OAは進行性の疾患であるが、継続的な運動療法により11年という長期間にわたっても症状が改善し生活範囲が維持できることを本症例で示すことができた。
【理学療法学研究としての意義】筋力、疼痛、関節可動域、体重、予後能力、移動能力など、さまざまな点から膝OAの長期的な変化を観察して示すことができたことは理学療法上の意味が大きいと考える。

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© 2010 日本理学療法士協会
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