理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O1-139
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一般演題(口述)
骨粗鬆症に対する運動療法と薬物療法の相乗効果についての前向き研究
秋山 泰大橘田 惇志渡邊 基子森重 育子野崎 由加堀田 一樹山森 寛之酒井 大輔
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抄録

【目的】骨粗鬆症は骨量減少と骨の脆弱化によって骨折しやすくなった状態と定義され、骨粗鬆症による骨折が原因で寝たきりとなる高齢者は全体の13.2%にものぼるといわれている。骨粗鬆症治療の目標は骨折予防であり、骨量増加に加え転倒予防にも目を向ける必要がある。現在、骨粗鬆症治療として薬物療法と運動療法がありそれぞれ単独での効果は立証済みであるが、それらの相乗効果を研究した報告は極めて少ない。本研究の目的は骨粗鬆症治療薬として薬効の認められているリセドロネートと骨量減少予防や転倒予防効果が報告されている運動療法を組み合わせ、その相乗効果を調べ骨粗鬆症治療の一助とすることである。
【方法】対象は2008年から2009年に当院整形外科にて骨粗鬆症と診断され、年齢、身長、体重、Body Mass Index(BMI)、一日の歩数に差のない60歳以上の閉経女性45例とし、その45例を無作為に3群に分類した。3群の内訳はA群:リセドロネート投与群15例、P群:運動療法群13例、A+P群:リセドロネート投与+運動療法群17例である。A群、A+P群は整形外科医師の指示にてリセドロネート17.5mgを週1回服用し、P群、A+P群は荷重下での筋力強化やストレッチングなど週1回30分の運動療法を実施した。評価は骨量の指標として診療放射線技師に依頼しGE Lunar社製のDPX-BRAVOを使用し腰椎、大腿骨頸部、大腿骨全体の骨量を介入前と介入後4ヶ月で測定した。身体機能およびQuality Of Life(QOL)の指標として筋力(膝伸展筋力、背筋力)、歩行能力(Timed Up and Go Test:TUG)、バランス能力(Functional Reach Test:FR)、骨粗鬆症患者QOL評価簡略質問表(Mini-JOQOL)を介入前と介入後6ヶ月で評価した。また、対象者の活動量として一日の歩数を万歩計で調査した。統計学的分析には、群間(A群、P群、A+P群)と時間(介入前、介入後)の2要因について二元配置の分散分析を実施し、各群の介入前後の骨量および身体機能の比較に対応のあるt検定を、QOLにはウィルコクソンの符号付順位和検定を用い、有意水準は危険率5%未満とした。
【説明と同意】研究の主旨を十分に説明し、書面にて同意を得た。
【結果】骨量、身体機能、QOLは群間および時間において主効果も交互作用も有意差を認めなかった。各群の介入前後の骨量(g/cm2)の比較は、腰椎および大腿骨頚部においてA群およびA+P群で介入後に有意に高値を示した(p<0.05)。また大腿骨全体においてはA+P群で介入後に有意に高値を示した(p<0.01)。身体機能の比較は、膝伸展筋力および背筋力においてP群で介入後に有意に高値を示した(膝伸展筋力:p<0.01、背筋力:p<0.05)が、TUG、FRにおいては、介入前のそれぞれの値と比較して3群とも有意差を認めなかった。Mini-JOQOL(点)においては総得点で3群とも介入後は増加傾向を示し、A+P群で有意に高値を示した(p<0.01)。また、Mini-JOQOLをドメイン別に分類すると、A+P群で痛み、総合的健康度の項目において介入後に有意に高値を示した(痛み:p<0.05、総合的健康度:p<0.01)。
【考察】A群とA+P群で腰椎と大腿骨頚部の骨量の有意な向上を示し、リセドロネートの薬効(骨吸収の抑制効果)が立証された。また、運動療法単独では骨量向上を認めなかったが、A+P群においては腰椎、大腿骨頚部、大腿骨全体の3部位で向上を示し、リセドロネートによる骨吸収抑制効果に荷重下での運動による骨量増加効果が加わることで骨吸収と骨形成のアンカップリングが是正され骨量の向上につながったのではないかと考える。一方で、運動療法を行ったP群では介入後に筋力が有意に向上し、A+P群も筋力が向上する傾向がみられた。荷重下での運動は骨格筋にメカニカルストレスを与え骨格筋の肥大に作用するといわれており、膝伸展筋力の向上は立位・歩行バランスの改善につながり、背筋力の向上は脊椎後弯変形や新規脊椎骨折の予防につながり、骨粗鬆症治療の目標である骨折予防に関与すると考えられる。また、QOLにおいてもA+P群で有意に向上がみられ、特に疼痛と総合的健康度のドメインで有意に向上を示していた。骨量や筋力の向上は骨自体の疼痛やアライメントの改善による筋性疼痛の軽減をもたらすばかりでなく、歩行不安定性の改善や寝たきりや転倒に対する不安の解消へとつながり薬物療法と運動療法を組み合わせることが骨粗鬆症患者の活動性や生活の満足度を高めることができると考える。
【理学療法学研究としての意義】骨粗鬆症患者に対して薬物療法と運動療法を組み合わせることで骨量、身体機能、QOLの向上につながり骨粗鬆症治療の目標である骨折予防とQOL改善に効果があることが示唆され、理学療法の有効性を再認識することができた。骨粗鬆症に対する各々の治療が患者の特性に合わせて選択されることがよりよい治療につながると考えられる。

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© 2010 日本理学療法士協会
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