抄録
【目的】
肩こりに関与する要因についての検討はこれまでに血行障害による問題1)や僧帽筋の筋硬度に関する報告2)がある。しかし、肩こりと頚椎の形態との関連に着目した研究は少ない。
本研究は、頚部疾患を持つ肩こりが有る方と無い方の頚椎前弯角度、及び椎間腔の距離、頚椎の関節可動域(以下ROM)、筋断面積を比較することにより、形態的特徴を検討することを目的とした。
【方法】
対象は当法人内で頚部疾患と診断された方(捻挫、外傷は除く) 54名(男性15名,女性39名、年齢66.7±24.3歳)とした。対象者全員に肩こりの有無について問診を行い、肩こりの症状が有る方(46名)と、肩こりの症状が無い方(8名)の2グループに分類した。
筋断面積はMRI検査を受けた方を対象とし、肩こり有り群は5名、肩こり無し群は2名を対象とした。
X線撮影は株式会社日立メディコ社製U‐6CE‐55TBを使用し、MRIは株式会社日立メディコ社製MRI AIRISIIを使用した。
X線画像は、当法人のクリニックで2008~2009年に撮影されたものを使用した。撮影は放射線技師により、対象者は立位姿勢とし、焦点-フィルム間距離を150cmで行った。X線画像の計測方法は、株式会社日立メディコ社製画像ビューアーNatural-Viewを使用した。
前弯角度は単純X線写真側面像を用い、C2椎体下縁の前後を結んだ直線とC7椎体上縁の前後を結んだ直線で作られる角度とし3)、椎間腔の距離はC2-C7の各椎間の椎体上縁から椎体下縁までの距離を測定した。頚椎のROMは日本整形外科学会に準じ頚椎の屈曲と伸展角度を計測した。
筋断面積はT2:TE 120msec TR 3500msec 、slice thickness3.5mmで撮影されたC5-6間における水平面画像を使用し、僧帽筋上部、頭半棘筋、頚半棘筋、多裂筋、回旋筋を対象とした。また、撮影の際には、横断面の位置、切断面の角度など、測定条件が異なる為、椎体断面積と各筋の筋断面積を比較し検討した。筋断面積の解析には画像処理ソフトウェアImage Jを使用した。
これらの各測定結果から肩こり有り群と肩こり無し群で有意差を検討した。統計学的検討は頚椎前弯角、頚椎の屈曲、伸展に対し一元配置分散分析を使用し、各椎間腔の距離は二元配置分散分析を使用した。MRI画像の比較方法に関しては平均値を使用した。
【説明と同意】
実験手順と方法は所属施設における倫理委員会の承諾を得て行った。その上で対象者に研究の目的と方法を十分に説明し、同意を得た上で研究を行った。
【結果】
頚椎前弯角、C2-7の各椎間腔の距離、頚椎の屈曲、伸展を肩こり有り群と肩こり無し群で比較した。その結果、頚椎前弯角、C2-7の各椎間腔の距離、頚椎の屈曲は2群間で有意差は見られなかった。頚椎伸展は肩こり有り群44.5±13.3°、肩こり無し群61.3±13.6°で有意差が見られた(p<0.01)。椎体断面積と僧帽筋上部断面積の比較においては平均値を用い、肩こり有り群では右32.4% 、左27.6%、肩こり無し群で右14.0%、左12.5%であった。また、椎体と頭半棘筋、頚半棘、多裂筋、回旋筋の比較は肩こり有り群で、右45.7%、左47.4%、肩こり無し群で右48.3%、左50.2%であった。椎体断面積と僧帽筋上部筋断面積の比較において、肩こり無し群より、肩こり有り群に大きい値が見られた。椎体断面積と頭半棘筋、頚半棘、多裂筋、回旋筋断面積の比較においては変化がみられなかった。
【考察】
今回の研究において肩こり有り群と肩こり無し群の比較で頚椎前弯角、頚椎屈曲、椎間腔の距離に有意差は見られなかった。このことから頚部疾患における肩こりの症状は頚椎前弯角、頚椎屈曲、椎間腔の距離に関係はないと示唆される。
頚椎伸展の可動域は、2群間で有意差が認められた。肩こり有り群は、肩こり無し群より伸展の可動域が制限されていた。このことから頚部疾患における肩こりは頚椎の伸展可動域に関係していると考えられる。
MRI画像における椎体断面積と各筋断面積測定結果より、肩こり有り群は肩こり無し群より僧帽筋上部の筋断面積に大きい値がみられた。頭半棘筋、頚半棘、多裂筋、回旋筋は変化がみられなかった。これらの結果より肩こりに対する治療方法の一つとして、頚椎の静的アライメントに対する治療を行うのではなく、頚椎の動きやそれらに関わる軟部組織に対しアプローチを行う必要があると示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は頚部疾患を持つ人の肩こりの原因に頚椎伸展の動きが関係していると考えられた。この結果より、肩こりに対する指標の一つとして検討していく必要があると考える。
また、肩こりを詳細に評価するためには軟部組織に対するより正確な検討も必要になってくると考える。