理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-144
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一般演題(口述)
地域在住高齢者の転倒に影響を及ぼすリスク因子に関する検討
運動機能に着目して
竹岡 亨山田 実永井 宏達田中 武一上村 一貴市橋 則明
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抄録
【目的】
転倒による骨折は、要介護の状態となる要因の上位に挙げられている。そのため、転倒の危険因子に関しては、世界中で調査が行われており、筋力低下や歩行速度低下などの運動機能に加えて認知機能や投薬状況、環境因子などが報告されている。一方、脊椎の後弯変形は、高齢者の代表的な形態学的変化であり、立位バランス能力低下や歩幅減少など、変形に直結する問題を生じさせるだけでなく、移動時のエネルギー効率低下や、視界の制限など二次的な影響を招くことも予想され、重大な転倒リスク要因となっている可能性がある。しかし、脊椎アライメント、歩行能力、バランス能力、筋力を、多変量的に解析し転倒との関連性について検討されたものは見当たらず、脊椎アライメントの変化がどの程度、転倒に寄与しているのかは不明である。本研究の目的は、高齢者における脊椎アライメントを加えた種々の運動機能が転倒に及ぼす影響について多変量的に検討することである。
【方法】
対象は、地域在住高齢者117名(平均年齢79.5±8.6歳)である。なお、神経学的疾患を有する者、重度認知症の者は対象から除外した。過去一年間の転倒歴を聴取し、脊椎アライメント、膝伸展筋力、10m歩行時間、timed up and go test(以下TUG)、開眼片足立位時間、functional reach test(以下FR)を測定した。脊椎アライメントは、スパイナルマウスを用いて静止立位・体幹屈曲位・体幹伸展位の3姿位での、胸椎後弯角度、腰椎前弯角度および前後屈可動域を立位にて測定した。膝伸展筋力は、膝関節90°屈曲位で等尺性筋力を測定した。得られた数値より関節トルクを算出し、体重で除してトルク体重比として正規化した。
統計解析は、転倒歴を基に転倒群、非転倒群の2群に分類し、各測定項目の差を対応のないt検定で検討した。また、ピアソン相関係数を用いて、脊椎アライメントの関連性を検討した上で、転倒の有無を従属変数、年齢、静止立位時の腰椎前弯角度、膝伸展筋力、歩行速度、TUG、片足立位時間、FRを独立変数としたとしたロジステッィク回帰分析を行い、転倒に関連する因子を抽出した。なお、統計学的有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】
対象者には、研究の趣旨について十分な説明を行い、研究参加の同意を得た。
【結果】
対象者のうち、過去一年間に転倒した者は40名(35%)であった。対応のないt検定によって、転倒群と非転倒群を比較した結果、脊椎アライメントでは静止立位時および体幹伸展時の腰椎前弯角度に有意差を認め、転倒群で腰椎前弯角度が減少していた(p<0.01)。また、脊椎の可動域に関しては、腰椎屈曲可動域に有意差を認め、転倒群では屈曲可動域が減少していた。また、膝伸展筋力、FR、10m歩行時間およびTUGにも有意差を認め、転倒群では有意に筋力(p<0.05)、動的な立位バランス(p<0.05)および移動能力(p<0.01)が低下していた。なお、片足立位保持時間には有意な差を認めなかった。脊椎アライメントの関連性については、静止立位時の腰椎前弯角度と体幹伸展時・屈曲時の腰椎前弯角度および屈曲可動域の間に有意な相関を認めた(r=0.89,r=0.63,r=-0.39,p<0.01)。
さらに、転倒の有無を従属変数、年齢、静止立位時の腰椎前弯角度、膝伸展筋力、歩行速度、TUG、片足立位時間、FRを独立変数としたロジスティック回帰分析による多変量解析の結果、転倒に影響を及ぼす因子として、TUG(95%信頼区間:1.006~1.343)、膝伸展筋力(95%信頼区間:1.000~1.018)、静止立位時の腰椎前弯角度(95%信頼区間:1.008~1.067)が抽出された。
【考察】
転倒群、非転倒群との間に差を認めた項目は数多くあったものの、多変量的に解析した結果、TUG、膝伸展筋力、静止立位時の腰椎前弯角度が抽出され、転倒の危険性を高める要因になることが示唆された。TUGは、立ち上がりや方向転換等を含めた複合的な移動能力、膝伸展筋力は全身筋力、腰椎前弯角度は姿勢制御能力の指標として転倒予防を総合的に捉える上で重要な因子になると考えられる。しかし、腰椎前弯角度の減少が転倒に及ぼす影響については報告が少なく、今後さらに詳細に検討していく必要があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は、静止立位時の腰椎前弯角度の減少が転倒の危険性を高めることを示唆した。この結果は、高齢者の転倒を考える上で、脊椎アライメントの評価を行う必要があることを示しており、今後の高齢者の転倒予防事業において、適切な評価、介入のための有用な情報を提供するものと考える。
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© 2010 日本理学療法士協会
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