抄録
【目的】近年,肩腱板断裂術後早期のリハビリテーションは一般的となっている.われわれは矢貴らが述べているように,術後早期の外転位外旋可動域の制限が術後1年の臨床成績を左右する可能性を考慮し,術後早期の外転位外旋可動域獲得を目標に日常のリハビリテーションを行っている.しかし,術後早期に外転位外旋可動域制限を認める症例をしばしば経験するが,その原因について言及した報告はわれわれが渉猟し得た範囲ではなかった.今回われわれは,肩腱板断裂術後早期の肩外転位外旋可動域獲得に影響を及ぼす因子について明らかにすることを目的に調査したので報告する.
【方法】広範囲腱板断裂を除く,腱板断裂手術例のうち,術後2週経過した65例65肩を対象とした.手術時平均年齢61.2歳(47~74歳),男性45例,女性20例であった.これらの症例を術後2週時の肩外転位外旋角度が中央値以上の29例29肩を良好群,中央値以下の36例36肩を不良群として2群に分類した.
2群間で,1:年齢,2:性別,3:罹患側,4:断裂サイズ,5:肩関節可動域(屈曲,外転,水平屈曲,水平伸展),6:疼痛の有無(安静時痛,夜間痛,他動運動痛の程度)の6項目について比較検討を行った.尚,他動運動痛の程度はVisual Analogue Scale(以下VAS)にて測定した.統計学的検定は年齢,断裂サイズ,肩関節可動域,他動運動痛はMann-Whitney U検定を使用し,性別,罹患側,安静・夜間痛の有無はχ2検定を用いて行い,危険率0.05未満を有意差ありとした.
【説明と同意】本研究の趣旨を説明し同意を得られた患者を対象とした.
【結果】手術時年齢は,良好群は平均60.4歳,不良群は平均61.9歳で,2群間に有意差はなかった.性別は,良好群は男性17肩,女性12肩,不良群は男性27肩,女性9肩であり2群間に有意差はなかった.罹患側は,良好群は右18肩,左11肩,不良群は右肩26,左10肩で,2群間に有意差はなかった.断裂サイズでは良好群は平均3.3cm,不良群では平均2.5cmであり,良好群は不良群に比較して有意に断裂サイズが大きかった(P<0.05).肩関節可動域は,屈曲は良好群142±12°,不良群149±8°,外転は良好群97±7°,不良群92±9°,水平伸展は良好群8±6°,不良群-3±7°であり,不良群は良好群と比較して屈曲,外転,水平伸展の3方向で有意な可動域制限を認めた(P<0.05,P<0.05,P<0.05,).水平屈曲の可動域は2群間で有意差を認めなかった.疼痛では,安静時・夜間時痛の有無について2群間で有意差を認めなかったが,他動運動時痛において良好群は46.6,不良群は60.3と不良群は良好群と比較して有意にVASスコアが高値を示した(P<0.05).
【考察】今回の調査では,術後早期の肩外旋可動域の制限する因子は,断裂サイズが小さい,肩関節可屈曲,外転,水平伸展の可動域制限がある,肩他動運動痛が強い,という結果であった.川島らは,断裂サイズが大きければimpingementが生じにくいが,小さければimpingementを生じ,痛みやそれに起因するmuscle spasmのため疼痛が強くなり,リラクゼーションが体得しにくいと述べている.今回のわれわれの結果も不良群では断裂サイズが小さく、術後2週で肩関節の他動運動痛が強いという結果が得られた.術後早期に muscle spasmを軽減し、リラクゼーションを体得する方法の検討が必要であると思われた.また,矢貴らによれば,術後2週で外旋可動域制限があると,将来的に可動域制限を残す可能性があると述べている.今回の結果では術後早期に外旋制限がある症例では,屈曲,外転,水平伸展の可動域にも有意な制限を認めた.これらのことより,外旋だけでなく、屈曲,外転,水平伸展可動域も術後早期に獲得することにより、長期的に良好な臨床成績を得られることが示唆された.
【理学療法学研究としての意義】術後2週時における肩外転位外旋の可動域制限に断裂サイズ,肩関節屈曲,外転,水平伸展の可動域制限の有無および肩関節他動運動痛が関与していることが分かった.術後早期から早期肩外転位外旋可動域の獲得と同時に屈曲,外転,水平伸展方向の可動域制限をなくすように意識して理学療法を行うことが,長期成績にも影響を及ぼす可能性が示唆された.