抄録
【目的】足部は身体で唯一地と接している部位であり,特に踵骨部は体重支持以外に距骨下関節を介して姿勢制御を行う重要な部位ともいえる。今回我々はheel pad(hp)とhalf heel pad(hhp)を立位時と歩行時に装着し,それぞれのパッドが身体に及ぼす影響について比較検討し若干の知見を得たので報告する。
【方法】1.被験者の開眼閉脚安静時立位(立位)での重心動揺測定を,パテラ社製スタビロメーターS510-Vを使用して測定した。測定項目は総軌跡長(D:cm),矩形面積(A:cm2),足長に対する踵部からの重心中心位置(G:%),矩形面積左右径(x:cm),矩形面積前後径(y:cm)とした。測定条件は踵部パッド無し(無),両足部hp装着,両足部hhp装着の3条件とした。両パッドの高さは5mm,hpの長さは踵骨粗面近位端から載距突起部近傍までとし,hhpはhpの1/2の長さとした。2.被験者の立位での床面と下腿軸との角度(下腿傾斜角)を測定した。3.足部縦アーチ(アーチ高位)を測定した。測定部位は床面から舟状骨結節までの垂直距離を測定した。いずれも測定条件は重心測定と同様の条件とした。4.両足部hp・hhpをそれぞれ装着しての100m歩行前後での足関節底・背屈自動運動可動域(ROM)と足関節他動底・背屈時の下腿最大周径(周径)をそれぞれ背臥位で測定した。統計的有意差判定はt検定を用い,5%未満を有意水準とした。
【説明と同意】被験者には本研究の趣旨を十分に説明し,同意を得た健常人11名(男性7名,女性4名。平均年齢21.5±0.78歳)を対象とした。
【結果】1.立位での重心動揺測定はxにおいてhhp1.8±0.55cmと無1.4±0.59cm(p<0.05),hhpとhp1.4±0.38cm(p<0.05)間で有意差を認めた。2.下腿傾斜角はhhp6.5±3.45度と無4.2±3.63度(p<0.01),hhpとhp5.1±3.05度(p<0.01)間で有意差を認めた。3.アーチ高位はhp4.3±0.56cmと無3.9±0.51cm (p<0.001),hpとhhp4.1±0.51cm(p<0.001),無とhhp(p<0.01)で有意な差を認めた。4.ROMは背屈においてhhp11.3±4.22度と無7.6±4.34度(p<0.01),hhpとhp8.1±4.30度(p<0.01)間で有意差を認めた。底屈ROMは有意な差を認めなかった。底屈周径ではhhp33.3±3.16cmと無33.7±3.14cm(p<0.05),hhpとhp33.7±3.10cm(p<0.01)間で有意差を認めた。背屈周径は有意な差を認めなかった。
【考察】立位での重心動揺測定においてhhpは重心の左右方向への成分が大きかった。下腿傾斜角ではhhpは明らかに前方へ傾斜しており,それにともなって重心位置も前方へ移行していると予測されたが足長に対する踵部からの重心中心位置は有意な差を認めず,前額面動揺が有意に認められた。これらはhhp装着時踵骨隆起が押し上げられ,立方骨は踵骨に対して下制し踵立方関節は離開する。第5列は外反し前足部横アーチは下降して支持機能面で開張足様の不安定な骨形態になることが予測される。したがって重心が左右方向へ分散されたと考えられた。hhpの下腿傾斜角が他と有意に大きな値を示したことは,hhpでは踵骨隆起が押し上げられ距骨が前方へ傾斜し下腿が前方移動されたと考えられた。また,足部縦アーチが伸張されたことにより後脛骨筋や腓骨筋群が伸張され内・外果が距骨に対して前方に押し出された結果,下腿傾斜角が拡大したとも考えられた。反対にhpでは踵骨粗面に起始部を持つ足底筋膜を押し上げ足部縦アーチを挙上して強固な足部構造となり下腿の前方移動を抑制したと考えられた。100m歩行後のhhpの背屈ROMが他より有意に拡大したのは,下腿傾斜角が増加しアーチが伸張された足部形態により歩行立脚時の背屈が強制され下腿後面筋が伸張されたと考えられた。底屈周径においてhpはhhpと比較して明らかに大きな値を示したのは,歩行時の前方への重心移動がhhpよりも抑制され,フットスラップ時下腿前面筋の過度な遠心性収縮が頻回になされた結果,筋硬結や筋のハリが生じたと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】足部は唯一地と接している部位のため身体運動連鎖の基盤ともいえる。今後,ますます足部構造の変化が身体にどのような影響を及ぼすのかという方面への研究が重要であることを痛感させられた。