理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-196
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一般演題(ポスター)
裸足及び踵補高靴着脱直後の下腿筋活動の比較
小林 梨絵寺村 誠治宮城 新吾前田 愛田中 惣治大西 徹也
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キーワード: 補高, 筋活動, 立位バランス
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抄録

【目的】ハイヒールを脱いだ直後にバランスを崩して転倒し、大腿骨頚部骨折を呈した症例を経験した。一般にハイヒール歩行の後には下腿に疲労や疼痛を感じることが多く、ハイヒールに関係する報告も数多く聞かれる。そこで本研究では、ハイヒールを模し、裸足と靴の踵を補高した靴(以下、踵補高靴とする)を履いた直後、さらに踵補高靴を脱いだ直後の下腿筋活動に着目し、その関与について検討した。

【方法】下肢に疾患のない健常女性10名(平均年齢29.3±3.9歳、平均身長160.6±5.5cm、平均体重51.8±3.3kg)を対象とした。表面筋電図(日本光電社製)を用い、導出筋は右下肢の前脛骨筋(以下TA)、腓腹筋外側頭(以下GSL)、腓腹筋内側頭(以下GSM)とし、サンプリング周波数は500Hzとした。測定は(1)裸足時、(2)踵補高靴(エチレンビニルアセテートにて踵部が10cm高くなるよう固定)を履いた直後、(3)トレッドミル(テクマシン社製)にて10分間の快適歩行直後、(4)踵補高靴を脱いだ直後でそれぞれの静止立位時における筋活動を測定した。また、筋電図の解析には%MVCを用いた。統計処理は一元配置分散分析にて各群の相違を求めた上で、多重比較検定(p<0.05)を行った。多重比較検定にはBonferroni/Dunnを用い、有意水準は5%とした。

【説明と同意】本研究における被験者は、実験の主旨・目的・方法について事前に紙面と口頭にて十分な説明を行い、実験に賛同が得られた者とした。

【結果】TAについては、裸足では3.26±1.87μV、踵補高靴を履いた直後は5.22±3.98μV、歩行直後は5.48±3.02μVであった。それらに3項目に比較し、踵補高靴を脱いだ直後は21.27±13.03μVであり、それぞれ有意に増大した。またGSLについては、裸足では6.50±1.75μVであったのに対し、踵補高靴を履いての歩行直後には14.14±6.39μVと有意に増大した。また、歩行直後と比べ踵補高靴を脱いだ直後は6.63±5.42μVと有意に減少した。GSMについては、裸足では8.62±4.70μVであったのに対し、踵補高靴を履いての歩行直後には23.98±9.79μVと有意に増大した。また、歩行直後と比べ踵補高靴を脱いだ直後は5.76±2.82μVと有意に減少した。

【考察】立位姿勢保持のためには抗重力筋の筋活動や姿勢バランスを保持するための反射が働いている。静止立位時に体幹が前方に傾くと、下腿三頭筋は伸張反射により収縮し、体幹を元の位置に戻そうとする。四肢伸筋の伸張反射は姿勢保持の基本となるため、筋長の微小な変化に対して脊髄反射を介して筋緊張を調整しバランスをとろうとする。踵補高靴を履くことにより足関節は底屈位となり、重心は前足部に移動する。それを制御するために無意識に腰椎前弯や骨盤前傾、膝関節の屈曲などにより重心を後方に移動させバランスを保とうとする。踵補高靴を脱いで急激に重心が後方に移動することで足関節では背屈反射が起こっていると考えられ、そのため裸足時と比べTAの筋放電が増加したと考えられる。静止立位時の外乱刺激に対する反応としては、足関節を主動としてバランスをとろうとする機構を用いてバランスを保とうとするのが一般的だが、踵補高靴を脱いだ直後はTAとその拮抗筋であるGSL・GSMの筋活動が逆転し不安定となるため、後方にバランスを崩しやすいと考えられる。さらに、高齢者では健常成人に比べて外乱刺激時の筋反応時間が延長すると言われているため、その傾向がより明らかになることが考えられる。

【理学療法学研究としての意義】ハイヒールを模して踵補高靴を作製し、裸足時と踵補高靴を着脱した直後の下腿筋活動を比較した。裸足と比べ踵補高靴を脱いだ直後にはTAの筋活動が有意に増加した。一方、踵補高靴を履き歩行をした直後と比べ踵補高靴を脱いだ直後にはGSL・GSMの筋活動が有意に減少した。踵補高靴を脱いだ直後には抗重力筋であるGSL・GSMとその拮抗筋であるTAの筋活動の逆転が起こり、後方にバランスを崩しやすいことが考えられる。本研究にて得られた経験を臨床において転倒防止のための患者教育の一助としたい。

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© 2010 日本理学療法士協会
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