理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-203
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一般演題(ポスター)
高位脛骨骨切り術後の知覚能力の変化が運動機能改善に及ぼす影響
平川 善之山口 健一
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抄録

【目的】
高位脛骨骨切り術(以下HTO)後患者を対象に、術前後の知覚能力と主観的筋収縮感覚(以下筋収縮感)の変化を調査し、術後早期の知覚能力向上訓練の有用性を考察する。
【方法】
当院におけるHTOはTomoFixを用いたOpening wedge法を施行している。術後の固定用装具は不要で早期荷重が可能である。術創は膝蓋骨下に約5mm、膝関節面より10cm遠位に水平に約10cm生じる。対象を同様の術式にてH21年7月~10月の期間にHTOを施行された患者15名(男性4名、女性11名、平均年齢64.7±9.5歳 術側右9名左6名)とした。HTO施行前(以下pre)術後1週(以下PO1W)術後2週(以下PO2W)術後3週(以下PO3W)術後5週(以下PO5W)に、知覚能力の評価として2点識別覚(以下TPD)と筋収縮感を評価した。詳細な評価方法を以下に記す。TPDテスト:測定部位を大腿中央部(膝蓋骨より10cm近位部)、膝関節部(膝蓋骨上端)、下腿中央部(膝蓋骨下15cm)の3点とした。この3点は術創部とは離れている。ノギスを使用し測定点を挟むように、下肢長軸方向に沿って2点同時に刺激を加え、対象者が2点と感じられる最小値を求めた。測定は各部位3回実施しその平均値を分析に用いた。筋収縮感:術側下肢での大腿・下腿部の最大筋収縮感が、非術側と比べてどの程度であるかを主観的に判断させた。判断方法は同程度の筋収縮感を10、全く筋収縮感がない場合を0とした。統計処理は、TPDの変化は繰り返しのある二元配置分散分析を、筋収縮感は一元配置分散分析を行い、各々Tukey-Kramer法にて多重比較を行った。統計学的有意水準を5%未満とした。
【説明と同意】
対象者には本研究の目的や方法に関し十分な説明を行い同意を得た。
【結果】
対象者全員が術後5週以内にT杖歩行自立となり、PTプログラムは順調に経過した。TPDの変化は大腿中央部でpre12.4±1.7mm PO1W19.1±3.3mm PO2W16.3±2.5mm PO3W14.1±2.1mm PO5W12.7±1.2mm、膝関節部ではpre11.5±1.7mm PO1W15.9±3.6mm PO2W15.4±4.2mm PO3W12.9±2.0mm PO5W12.3±1.5mm、下腿中央部ではpre11.9±1.5mm PO1W17.2±4.3mm PO2W16.9±3.3mm PO3W13.6±2.1mm PO5W12.8±1.1mmであった。測定した3部位共にpreとPO1W及びPO2W間に、PO1WとPO3W及びPO5W間に、PO2WとPO3W及びPO5W間に有意差が見られ、術後1週と2週時点でTPDが低下していた。筋収縮感はPO1W4±1.8 PO2W5.0±2.1 PO3W6.6±2.1 PO5W7.9±1.6でありPO1WとPO3W及びPO5W間に、PO2WとPO5W間に有意差があり術後筋収縮感が回復していた。
【考察】
TPDは第一次(S1)及び第二次体性感覚野(S2)が重要な役割を果たしているとされる。また慢性疼痛患者では疼痛部位のTPDが低下しており、対応するS1での感覚再現領域の狭小化という再組織化が生じていることがわかっている。このS1での再組織化は疼痛刺激直後に生じるとする報告もある。本研究の結果でも測定部位全てにおいて術後2週目までTPDが低下しており、対応するS1の狭小化が生じていると予測される。運動には先行して運動イメージが、運動イメージには身体図式が必要であり、身体図式の形成には知覚情報として体性感覚が重要な因子である。この体性感覚の1つである2点識別覚の低下は、身体に関する正確な知覚情報を得られないことを意味し、身体図式や運動イメージの形成に影響する。慢性腰痛患者において疼痛部位のTPDの低下と同部位のbody imageの変化が生じているとする報告もあり、本研究結果から術後早期には術側下肢全体の体性感覚情報に起因するbody imageの形成が困難な状態にあると考えられる。運動は知覚と密接な関連があり、「知覚と運動の循環」といわれる。この知覚能力の低下は運動機能にも影響すると思われる。またTPDの改善と同時に筋収縮感の向上が見られている。筋収縮感は立位や歩行といったADLの拡大には重要な因子であり、知覚能力の改善が筋収縮感の向上に重要な要素となることが推測された。
【理学療法学研究としての意義】
今回の結果から術直後に知覚能力の低下がおき、その回復と共に筋収縮感の向上が見られたことから、術直後に知覚能力に対しアプローチすることにより、知覚能力の早期回復と同時に筋収縮感の早期回復を図ることとなり、結果的に運動機能の改善にも影響するのではないかと考えられた。

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© 2010 日本理学療法士協会
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