理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-202
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一般演題(ポスター)
当院における高位脛骨骨切り術の現状と術後疼痛の実際
藤尾 公哉中村 大輔島津 尚子向山 ゆう子上杉 上畠中 泰司水落 和也
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抄録
【目的】高位脛骨骨切り術(HTO)は,変形性膝関節症(OA)や特発性膝骨壊死症(ON)に対する観血的治療法の一つであり,これまでにその長期的帰結について多くの良好な結果が示されている.現在,当院ではロッキング・プレートおよび骨補填剤を用いた楔状骨開大型HTO(OWHTO)が施行されている.OWHTOでは患肢の免荷期間が大幅に短縮し,術後14日目からの全荷重が可能となった.入院期間の短縮化が実現した一方で,全荷重後にも遷延する疼痛に難渋する症例を少なからず経験する.そこで本調査では,当院におけるOWHTOの現状をまとめ,疼痛を中心とした術後理学療法の問題点を整理し,急性期に配慮すべき点を明らかにすることを目的とする.
【方法】2007年から2008年の間に当院でOWHTOを施行した内側型OAまたはON例42例60膝のうち,データを収集できた29例37膝を対象とした.診療録より後方視的に調査し,術前・退院時・最終の日本整形外科学会膝OA治療成績判定基準(JOA score)採点時(以下,最終評価時)のそれぞれについて情報を収集した.調査項目は,術前および最終評価時のJOA score,大腿脛骨角(FTA),膝関節可動域(膝ROM),さらに,退院時の膝ROM,疼痛,歩行・階段能力,外来継続数,転帰とした.また,理学療法実施時の問題点と,全荷重後に訴えのあった疼痛部位およびその対応について抽出した.
【説明と同意】発表に際して,対象者に本調査の内容を十分に説明し理解を得た上で同意を得た.
【結果】対象の内訳は,男性11例・女性18例,OA21例・ON8例で,対象の平均年齢は65.6±10.1歳,平均在院日数は32.9±6.5日であった.また,最終評価時には術後平均17.7ヶ月が経過していた.各調査項目について,膝ROMは,術前で屈曲139±40.2°,伸展3.5±5.2°,退院時には屈曲127.1±32.1°,伸展1.7±4.4°,最終評価時では屈曲136.1±33.7°,伸展1.0±3.1°であった.FTAについては,術前182.2±50.5°,最終評価時168.8±70.5°であった.JOA scoreの総点は,術前64.6±17.3点であり,最終評価時には91.7±32.2点であった.理学療法実施時の問題点として,疼痛:19例,熱感・腫脹・こわばり:6例,恐怖心・不安:5例,肥満:2例,足部変形:2例,合併症:2例,その他:5例,があげられた.全荷重後の荷重時痛・歩行時痛の部位は,内側裂隙:8例,術部:8例,同側足関節:4例,Gerdy結節周辺:3例,近位脛骨外側:3例,膝蓋骨下方:2例,その他:4例,であった.それらの疼痛への対応として,炎症に対するアイスパック・リラクセーションの励行,全荷重困難例に対する松葉杖を用いた免荷,荷重時痛および歩行時痛に対する膝装具やテーピング・足底板の使用・運動連鎖を考慮した運動療法などを施行していた.退院時の理学療法評価で疼痛を訴えていた例は16例(55%)存在していたものの全例自宅退院を転帰とし,歩行補助具の使用は松葉杖:1例,ロフストランド杖:1例,T杖:23例で,膝装具を用いていた例は3例みられた.また,10m歩行速度は平均15.9±7.5秒であった.階段昇降では,退院時に2例が手すり・杖を用いずに可能であったが,他27例ではそれらの使用が必要であった.29例のうち,退院後に外来理学療法を継続していた例は10例で,継続期間は平均3.6ヶ月だった.
【考察】本調査では,当院のHTOについて術後急性期を中心に経過をまとめた.術後の理学療法で最も多数を占めた問題点は「疼痛」であり,「熱感・腫脹・こわばり」「不安・恐怖心」がこれに続いた.調査結果より,全荷重後にも誘発部位が異なる多彩な疼痛が遷延し,退院時まで残存する例が55%を占めることがわかった.荷重・歩行による疼痛部位から推察すると,術後の疼痛は骨切りに由来する痛み(術部)・OAに由来する痛み(内側裂隙)・他関節の痛み(足関節・対側膝関節)・炎症・その他,に大きく分類されると思われる.これらの術後疼痛に対して,理学療法では各症例の状態に合わせた対応を行っており,その結果,全例が歩行自立して自宅退院に至った.HTO術後の自覚症状の改善には,関節構成体の自己修復のため少なくとも半年の期間を要するとされている.その中で急性期の理学療法では多様な疼痛の原因を鑑別し,対応可能な痛みについて適切なアプローチを導くことが特に重要と考える.長期的な経過については,術後急性期の経過に個人差がみられたものの,先行研究と同様に歩行能力の面で大きく改善する傾向にあった.HTOでは機能障害の回復に時間を要しており,急性期にはこれに留意した対応が必要と思われる.
【理学療法学研究としての意義】現在,OWHTOの症例報告は少なく,術後の経過や理学療法の実施内容について不明な点が残されている.本調査の意義は,多くの症例数を集めた症例集積研究としてHTOの急性期理学療法の実際について記述し,配慮すべき点を明確にしている点である.
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© 2010 日本理学療法士協会
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