抄録
【目的】
当院は1135床を有する急性期病院であり,多くの疾患に対してクリティカルパス(以下パス)が使用されている.パスにはリハビリテーション(以下リハ)プログラムが取り入れられ,リハ科およびリハセンタースタッフは疾患の初期治療の段階より治療を実施している.2007年には全退院患者数の16.1%にあたる4281名に対してリハが処方された.しかしリハ科医は3名しかおらず,紹介患者数の増加により処方までの期間が長くなりリハ開始が遅延することが問題となっていた.そこで2008年7月より大腿骨頸部骨折患者に対し,整形外科医による直接処方が開始された.今回処方形式変更後の効果および問題点を検討するため,リハ科処方と整形外科直接処方の臨床成績を比較検討した.
【方法】
2008年1月~6月および2009年1月~9月に整形外科を退院した大腿骨頸部骨折患者327例を対象とした.なお保存療法および転科した症例は除外した.2008年1月~6月に退院した126例をリハ科処方群(以下リハ群),2009年1月~6月に退院した140例を前期整形外科直接処方群(以下前期群),2009年7月~9月に退院した61例を後期整形外科直接処方群(以下後期群)の3群に分類した.検討項目は,年齢,転帰,入院から理学療法(以下PT)開始までの日数,手術からPT開始までの日数,総在院日数,術後在院日数,受傷前歩行能力,退院時歩行能力,歩行能力改善点数(退院時歩行能力-受傷前歩行能力),開始時FIM,退院時FIM,FIM効率(FIM改善点数(退院時FIM-開始時FIM)/PT介入日数)とした.受傷前および退院時歩行能力は先行研究に基づき,歩行不能群,歩行器歩行・伝い歩き群,独歩・T字杖歩行群の3群に分類しそれぞれを0~2点に点数化した.統計学的解析はMann-whitney検定またはχ2検定を用い,有意水準は5%とした.
【説明と同意】
個人情報の保護には十分に配慮し,集積データは個人が特定できないようにした.また本研究は当院臨床研究センターの承認を得ている.
【結果】
年齢,転帰,総在院日数,術後在院日数は各群間において有意差を認めなかった.入院からPT開始までの日数は,リハ群6±3日,前期群5±3日,後期群3±2日,手術からPT開始までの日数は,リハ群0±4日,前期群0±4日,後期群-2±3日となり,後期群がリハ群,前期群に比べ有意にPT開始までの日数が短かった.受傷前歩行能力は,リハ群1.6±0.6点,前期群1.5±0.7点,後期群1.3±0.7点,退院時歩行能力は,リハ群0.5±0.7点,前期群0.5±0.6点,後期群0.3±0.5点となり,後期群の受傷前および退院時歩行能力がリハ群,前期群に比べ有意に低かったが,歩行能力改善点数は有意差を認めなかった.開始時FIMは各群間において有意差を認めなかったが,退院時FIMは,リハ群70±26点,前期群74±27点,後期群64±27点,FIM効率は,リハ群1.5±1.6点,前期群1.6±1.6点,後期群1.0±1.2点となり,後期群の退院時FIMおよびFIM効率が前期群に比べ有意に低かった.
【考察】
リハ群と前期群間では,全ての項目において有意差を認めなかった.直接処方が開始となった背景としてPT開始までの期間を短縮するということは目的の一つであったが,前期群では短縮することはできなかった.この原因として直接処方の手続き上の問題が考えられた.整形外科医は入院後早期にリハ処方しているにも関わらず,職種間での連絡の不備によりPT開始までに数日を要した症例がみられた.そこで整形外科医への処方方法の徹底や,看護師,事務,療法士へ直接処方を周知させた.加えて以前は処方翌日よりPTを開始していたが,2009年8月頃より可能な限り処方当日より開始した.これらの対策により後期群ではPT開始までの期間が短縮された.次に歩行能力改善点数において3群間で有意差を認めなかった.また開始時および退院時FIM,FIM効率において,リハ群と前期および後期群間で有意差を認めなかった.後期群のFIM効率が前期群に比べて有意に低かったが,これは前期群に比べ後期群のほうが早期にPTを開始したため術前のPT実施期間が長かったことによるものと考える.これらの結果は,直接処方に変更後もリハ科処方と同等の治療が実施できていることを示唆している.当院では約10年前より科別担当制を導入しており療法士は各科に特化している.またパスの使用によりリハプログラムが徹底している.これらの要因によってリハの質は維持されていると考える.
【理学療法学研究としての意義】
直接処方への変更により,早期にPTを開始することが可能となり,またリハ科処方と同等の結果を残すことができた.しかし早期にPTが開始できたにも関わらず,良好な術後成績を得るまでには至っていない.今後もより早期にPTが開始できるよう努めるとともに,術前および術後早期のPTプログラムの充実を図ることが課題である.