抄録
【目的】アキレス腱断裂後の機能障害に対する評価項目は多数存在する。その内の一つに、足関節自然下垂角が紹介されている。小林らは、手術例に関して、足関節自然下垂角を測定し、健側と比較して底屈角に減少が認められれば、下腿三頭筋不全を示唆するものであるとしている。しかし、足関節自然下垂角に関しては、主に手術例で使用されており、保存療法で経時的に評価された報告は渉猟する限りなく、この指標を用いることで治療経過としての理学療法評価に意味があるものと考えた。今回、アキレス腱断裂後に保存療法を選択された4症例に対して、経時的に足関節自然下垂角を評価した。その結果より、アキレス腱断裂後における足関節自然下垂角と下腿三頭筋筋力との関連性について検討することを目的とした。
【方法】症例は、2008年1月から12月までに当院のアキレス腱断裂保存療法クリニカルパスを施行され、後方視的に記録が確認できた4症例である。当院のアキレス腱断裂保存療法クリニカルパスは、6週間ギプス固定後、足関節ROM ex.が開始され、4週間の装具療法後、筋力強化を開始する内容である。理学療法評価期間は、受傷後7週目(ギプスオフ時)、10週目(装具オフ時)、3ヶ月、6ヶ月の4つの時点とし筋力のみ後述の2時点とした。理学療法評価項目は、腹臥位での足関節自然下垂角(膝関節伸展位)、足関節筋力評価(両側つま先立ちの可否または片側つま先立ちの可否、床からの距離、回数)とした。
【説明と同意】今回の発表にあたり、4症例から本発表の主旨を説明し同意を得ている。
【結果】結果は健側、患側ともに、足関節自然下垂角、両側つま先立ちの可否または片側つま先立ちの可否(床からの距離、回数)の順で記述した。
症例1:左側受傷、40歳台、女性、健側;35°、片側つま先立ち可(12cm、20回以上)、患側7週目;20°、10週目;12°、3ヶ月;11°、両側つま先立ち可(7cm、20回)、6ヶ月:15°、片側つま先立ち可(9cm、20回)
症例2:左側受傷、30歳台、女性 健側;30°、片側つま先立ち可(12cm、20回以上)、患側7週目;25°、10週目;25°、3ヶ月;20°、両側つま先立ち可(9cm、20回)、6ヶ月:25°、片側つま先立ち可(9cm、20回)
症例3:左側受傷、40歳台、男性 健側;35°、片側つま先立ち可(11cm、20回以上)、患側7週目;25°、10週目;30°、3ヶ月;15°、両側つま先立ち可(8cm、20回)、6ヶ月:20°、片側つま先立ち可(8cm、20回)
症例4:右側受傷、30歳台、男性 健側;35°、片側つま先立ち可(12cm、20回以上)、患側7週目;45°、10週目;30°、3ヶ月;30°、両側つま先立ち可(8cm、20回)、6ヶ月:30°、片側つま先立ち可(9cm、20回)
【考察】アキレス腱断裂の治療法は、保存療法と手術療法とがあり、いずれにおいても臨床成績は良好で、早期の運動復帰と筋力回復を目指した治療が行われている。今回の4症例もクリニカルパスに準じて理学療法を実施し、機能改善を図った。4症例ともに足関節ROMは順調に改善し、足関節自然下垂角に影響しない背屈角度は獲得しており、終了時にはほぼ健側と同等になった。
検討項目として、足関節自然下垂角は、健側に比較し3ヵ月まで減少し、6カ月時点では徐々に改善するも健側足関節自然下垂角までの改善は認めなかった。下腿三頭筋の筋力は、3ヵ月で両側つま先立ち、6ヶ月で片側つま先立ちがなんとか可能なMMT2レベルであった。保存療法後においても、小林らの手術例の報告同様に足関節自然下垂角が減少していることに加え、足関節自然下垂角と下腿三頭筋筋力との関連性では片側つま先立ちの十分な筋出力の発揮が困難であった。
保存療法における腹臥位自然下垂角の減少理由は、アキレス腱断裂による腱の延長、受傷に伴う下腿三頭筋の筋緊張の低下などが考えられたが、筋力強化を積極的に進めた3ヶ月以降より足関節自然下垂角および筋力の改善を認めており、理学療法内容として問題となる訓練は実施していないと思われ、3ヵ月以降における荷重下での筋力強化の工夫が重要と考えられた。
今後は、健側を指標とする足関節自然下垂角の改善を得られていないことから、どのような経過を辿るかを継続した検討が必要である。また、足関節自然下垂角の減少するメカニズムは不明であるも、減少する事実は認められており、足関節自然下垂角減少が神経学的要因としての下腿三頭筋不全の指標であるのか、筋力低下および荷重下における下腿三頭筋のアンプリチュード低下などが影響しているのか検討を重ねる必要がある。
【理学療法学研究としての意義】アキレス腱断裂保存療法後の足関節自然下垂角の減少も、下腿三頭筋不全を示唆するものであると考えられた。