理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O1-148
会議情報

一般演題(口述)
睡眠の質の相違は身体活動および健康関連QOLに影響するか?
慢性心不全患者における検討
井澤 和大渡辺 敏平木 幸治森尾 裕志笠原 酉介岡 浩一朗長田 尚彦大宮 一人
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抄録

【目 的】
睡眠の質の低下は,不安や抑うつに影響する要因として知られている.大学生を対象とした先行研究において荒井ら(2006)は,身体活動(PA)が主観的な睡眠の質と部分的に関連することを示した. また, Izawa et al(2004)は,日常生活におけるPAの高低は,心疾患患者の健康関連QOL(HRQOL)に関連することを報告している. 以上より睡眠の質の程度は,PAやHRQOLに少なからず影響を及ぼす可能性があるものの,慢性心不全(CHF)患者における睡眠の質の違いがそれらに及ぼす影響については明らかではない. 本研究の目的は,睡眠の質の相違がPAおよびHRQOLに及ぼす影響について検討し,CHF患者に対する生活指導のための方策を得ることである.
【方 法】
1.対象
対象は,2004年11月から2009年5月の間に当院リハ部に心肺運動負荷試験(CPX)目的に来院した連続979件のうち,除外基準を除き, かつ睡眠の質に関する調査,PAおよびHRQOLの測定に同意が得られた外来通院中のCHF患者161例である. 除外基準は1)年齢30歳未満,2)NYHA心機能分類 IV度,3)診療記録より各指標の調査不能例,4)重篤不整脈,残存大動脈瘤,高次能機能障害,呼吸器疾患を有する例である.
2.患者背景
年齢, 性, 基礎疾患, 最近のアルコール摂取の有無および投薬内容など患者背景に関する情報および左室駆出率など各指標は, 診療記録より調査した。
3.睡眠の質に関する調査
睡眠の質に関する調査は,自己記入式にて行った. その内容は1)「どちらかというと浅い眠り」, 2)「どちらかというと深い眠り」である. 判定方法は二者択一である. 調査終了後,全対象者は,睡眠が浅い群(A群)と睡眠が深い群(B群)の2群に選別された.
4.PA
本研究におけるPAの指標は歩数と消費カロリーとした. 測定にはLifecorderを用い, その装着部位は腰部とした.
患者はそれを入浴,就寝中を除く24時間,連続8日間装着した。測定終了後検者は, 初日を除く7日間の歩数および消費カロリーの平均値(日歩数およびkcal)を算出した.
5HRQOL
HRQOLの指標には, SF-36日本語版を用いた. 本研究では, SF-36の身体的側面(PCS)と精神的側面(MCS)のサマリースコアをHRQOLの指標とした.
6.解析
各指標は平均値±標準偏差で示した. 両群における患者背景および睡眠の質の違いによるPAとHRQOLの差の検定には, 正規性を確認した後, T検定およびカイ二乗検定を用いた. 睡眠の質の相違によるPAとHRQOLのカットオフ値の算出にはROC曲線を用いた. なお統計学的判定の有意水準は5%とした.
【説明と同意】
本研究を計画するにあたり当大学生命倫理委員会の承認を得た(承認番号340号). 実施に際しては,全対象者に本研究の趣旨を説明した後,書面にて同意を得た.
【結 果】
1.最終対象者
161例中12例は,PAの連続測定あるいはHRQOLの解析が不能であり対象から除外した. 従って最終対象者は,149例(年齢57.7歳,男性85%)であった.
2.患者背景は,アルコール摂取のみA群 はB群 に比し高い割合を示した(59% vs.40%,カイ二乗=6.18,p=0.01). なお, その他の指標に差は認めなかった.
3.PA
日歩数は, A群は5543.6±2410.3, B群は6815.0±2794.7日歩数(t=-2.97,p<0.001)であった. 消費カロリーは,A群は161.7±101.1, B群は199.9±113.4 kcal(t=-2.09,p=0.03)であり,PAは両指標ともにA 群はB群に比し低値を示した.
4.HRQOL
PCSは,A群は46.2±8.0, B群は45.9±7.2(t=0.22,p=0.82)であった. MCSは A群は46.1±10.0, B群は52.6±8.4(t=-4.21,p<0.001)であり,HRQOLのMCSにおいてA群はB群に比し低い値を示した.
5.各指標のカットオフ値
睡眠の質(どちらかというと深い眠り)をアウトカム, 日歩数, 消費エネルギーおよびMCSを独立変数とした場合の各指標のカットオフ値は, 日歩数(5723.6 歩), 消費エネルギー(156.4kcal)およびMCS(48.9)であった.
【考 察】
患者背景に関しては, 睡眠の質の相違はアルコール摂取の有無を除く各指標において差を認めなかった. 以上よりCHF患者におけるアルコール摂取の有無は, 睡眠の質に関わる一要因となりうるものと考えられる.
また, 睡眠の質の相違はPAやHRQOLのMCSに差異を生じることが明らかとなった. すなわち,睡眠の質の低下は患者のPAに加え, HRQOLのうち精神的側面の低下に影響する可能性がある. さらに,睡眠の質からみたCHF患者のPAおよびHRQOLの目標値は, それぞれ日歩数(5723.6歩),消費エネルギー(156.4kcal)およびMCS(48.9)が望ましいと考えられた.
【理学療法学研究としての意義】
睡眠の質はCHF患者のPAおよび精神的側面の低下にも影響する可能性がある. 本研究結果は,睡眠の質の相違がアルコール摂取, PAおよびHRQOLの精神的側面に少なからず影響を及ぼすことを示した. 以上より,CHF患者に対する生活指導方策の一助となるものと思われる.

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© 2010 日本理学療法士協会
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