理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O1-149
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一般演題(口述)
姿勢変化がペダリング運動中の循環動態に及ぼす影響
望月 寿幸松尾 善美森久 賢一八尾 隆治福田 豊史田端 作好山本 則之矢嶋 息吹
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抄録

【目的】我々は、血液透析(以下透析)患者における有酸素運動としてのペダリング運動の効果に関して国内外の文献を調査した。その中で最高酸素摂取量についてのメタアナリシスを含めたアウトカムレビューを行い、効果量として統合平均値差5.32を確認した。わが国では近年、透析施行中の下肢エルゴメーターを用いた軽負荷でのペダリング運動が身体機能改善や日常の身体活動を補うための方法として導入され始めている。レビューした文献ではペダリング運動は体幹直立位での座位で行われていたが、当院も含めて一般に透析はベッド上で行われることが多く、座位でのペダリング運動が困難であることが多い。しかし、透析中の運動では透析終盤での血圧低下が懸念され、経験的にはファーラー肢位がよいとの指摘もある。さらに、ペダリング運動時の循環動態について、姿勢変化による変動に関する報告は我々が調べ得た限り見当たらない。そこで、今回自転車エルゴメーターを用いたペダリング運動時における循環動態の姿勢変化による変動について健常男性を対象とした研究を行ったので報告する。
【方法】健常男性10名(平均年齢34.4±8.0歳)を対象とした。座面に対するバックレスト角度30度の姿勢(30度座位)で心拍数が安定するまで最低5分間の安静の後、5分間のペダリング運動を自転車エルゴメーターで行った。続いて、心拍数が安定するまで最低5分間の安静の後、バックレスト角度80度の姿勢(80度座位)にて5分間のペダリング運動を行った。その間、毎分の血圧測定とともにManatec Biomedical社製 Physioflowを用い心拍数、一回拍出量、心拍出量、心係数、収縮係数、全末梢血管抵抗を非侵襲的に0.2Hzで測定した。なお、ペダリング運動の負荷量は25ワット、毎分50回転とした。運動開始直後1分間を除いた4分間の各指標の平均値を安静時5分間における平均値で除した値に100を乗じた値を安静時に対する相対値(%)として算出し、SPSS ver.18を用いた一元配置分散分析およびWelch検定にて30度座位と80度座位との個人間比較を行い、有意水準を5%とした。
【説明と同意】すべての被験者に対して研究目的と個人情報の保護、調査に協力できない場合でも不利益は生じないことを説明し、同意を得た後に実験を開始した。
【結果】相対値は一回拍出量(80度座位、30度座位、p=;131.3±52.6、118.1±43.3、p=0.001)、心拍出量(151.8±40.0、140.3±30.4、p=0.001)、心係数(151.8±40.0、140.3±30.4、p=0.001)、収縮期血圧(112.3±7.3、16.3±10.9、p=0.001)、拡張期血圧(113.7±12.4、11.2±10.0、p=0.001)の各指標で80度座位が30度座位よりも有意に高値を示した。逆に、心拍数(131.7±11.5、136.4±15.2、p=0.001)は30度座位で有意に高値であった。全末梢血管抵抗(78.2±18.2、75.6±13.5、p=0.055)については、80度座位で高い傾向が認められた。収縮係数(179.1±183.8、158.2±186.1、p=0.178)は80度座位が高値であったものの有意差は認められなかった。なお、安静時、80度座位、30度座位における全被験者の平均心拍数(拍/分)はそれぞれ64.1±10.3、85.3±15.9、88.6±18.2であった。また、負荷量25ワットでのペダリング運動における予測最大心拍数から計算した平均運動強度(%)は80度座位で46.1±9.6、30度座位で47.9±11.1であった。
【考察】健常男性を被験者とした低負荷でのペダリング運動中の循環動態に関する指標は、80度座位では30度座位と比較して心拍数は低値であったが一回拍出量は高値であった。心拍数と一回拍出量の積である心拍出量も高値を示した。全末梢血管抵抗は80度座位で有意差はないものの高い傾向を示し、心拍出量との積である収縮期血圧および拡張期血圧は有意に高値であった。姿勢が循環動態に与える影響を考慮すると、30度座位では80度座位と比較して静脈還流が多く心拍出量も増加すると思われたが、本研究において80度座位で心拍出量、血圧が高値であったのは下肢全体の仕事量が30度座位よりも大きかった可能性が示唆された。Fareseらは透析中の他動的ペダリング運動によって透析中の血圧低下が軽減されたと報告しているが、透析中のペダリング運動時の循環動態を考慮するに当たっては、姿勢や血管拡張能、除水による透析時の血圧低下等の影響について今後さらに研究が必要であると思われる。
【理学療法学研究としての意義】有酸素運動としてのペダリング運動を透析中に行うことで身体機能、quality of lifeの改善、さらには透析効率の改善、透析中の血圧低下軽減が文献的に報告されている。透析中のペダリング運動施行に際しては、姿勢、実施時間、運動負荷、除水による血圧変動など、多くの考慮すべき制約因子がある。ペダリング運動時における循環動態を調査して至適運動プロトコール作成の一助とすることは意義あることと思われる。

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© 2010 日本理学療法士協会
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