抄録
【目的】
近年,慢性呼吸不全患者の急性増悪時には,非侵襲的陽圧呼吸管理(NPPV)が積極的に導入され,その利便性や技術の進歩により,呼吸不全の治療には不可欠ものとなっている。
当院では,慢性呼吸不全急性増悪患者に対して理学療法士が可及的早期から介入し,NPPVのマスク調整や排痰,呼吸練習などのコンディショニングを行いながら,廃用予防のために離床練習などを積極的に展開している。しかし,NPPVを要する慢性呼吸不全急性増悪患者に対し,理学療法(PT)介入の効果などを検討した報告は依然少ないのが現状である。
そこで今回,当院にてNPPVを施行し,PT介入を行った慢性呼吸不全急性増悪患者に対し,各調査項目の傾向や特徴について調査を行い,ADLや活動レベルについて検討したので報告する。
【方法】
対象は,2006年4月1日から2009年3月31日までの3年間に当院呼吸器センターに入院し,PTの処方を受け,NPPVを行った慢性呼吸不全急性増悪患者130例(男性71例,女性59例,平均年齢76.5±8.9歳)とした。
調査方法は,カルテより後方視的に,1.患者情報(診断名,基礎疾患の有無,合併症の有無),2.PT内容(PT実施項目,入院からPT介入までの期間,PT実施期間),3.帰結(入院期間,転帰,挿管下人工呼吸管理の有無,Barthel index(BI)の変化,活動レベルの変化)について調査し,各調査項目をBIや活動レベルなどで検討を行った。
【説明と同意】
本研究では,当院専用の研究および教育に関する同意書に同意した患者を対象とした。また,患者本人が意思決定困難な場合は,家族から同意が得られたものを対象とした。
【結果】
呼吸器疾患の内訳は,肺結核後遺症46例(35.4%),慢性閉塞性肺疾患(COPD)41例(31.5%),気管支拡張症18例(13.8%),その他25例(19.2%)であった。呼吸器疾患以外の基礎疾患を有する患者は10例(7.7%)で,その大部分が脳血管障害であった。急性増悪誘因としては心不全が29.2%,呼吸器感染症が27.7%でその他は不明であった。
PT実施内容については,全例で呼吸コントロールやポジショニングなどを含めたNPPV管理サポートから介入しており,排痰サポートを行ったものは84例(64.6%)であった。ベッドサイドでの坐位や立位訓練,室内歩行程度の離床練習を実施できたのは119例(91.5%)で,院内または病棟内歩行や筋力訓練などの運動療法まで実施できた患者は94例(72.3%)であった。また,PT開始時期については,入院翌日までに介入できたのは94例(72.3%)で,PT実施期間は中央値で18.5日であった。
帰結については、入院期間は中央値で21日であった。NPPVでは改善困難なため,挿管下人工呼吸管理を要したものは1例(0.8%)とわずかであった。BIは入院時44.0±24.5点から退院時79.8±18.7点へ改善を認めたが(p<0.001),入院前安定期と比較すると若干低下を認めた。
転帰は,自宅退院104例(80.0%),転院8例(6.2%),死亡退院は18例(13.8%)であった。死亡例を除く退院時の活動レベルは,歩行自立レベル78例(69.6%),歩行監視レベル21例(18.8%),坐位自立レベル7例(6.3%),坐位部分介助レベル4例(3.6%),全介助レベル2例(1.8%)であったが,12例(10.7%)の患者で安定期のレベルよりも低下を認めた。
離床練習が行えなかった患者についてさらに検討すると,死亡例が91.8%と多く,入院期間も離床練習実施群より有意に短く(p<0.05),活動レベルも高くなかった(p<0.01)。さらには,COPD患者と肺結核後遺症患者で比較を行うと,BIは全体を通して肺結核後遺症群で高かったが(p<0.01),BIの回復度さらには活動レベルや転帰に関して有意差は認めなかった。他疾患を含めた検定においても有意差は認めなかった。
【考察】
NPPVを要する慢性呼吸不全急性増悪患者は重症例が多いため,入院治療により容易にADLの低下が起こりやすく,可及的早期から離床を進めることでさらなるADL低下を予防する必要がある。
当院の成績では,90%以上の患者で離床練習まで実施できており,ADLもほぼ入院前の状態まで改善が得られていた。しかし,離床練習を行っても活動レベルが低下する患者も存在し,さらには離床練習が行えない最重症患者では死亡率も高く,活動レベルも低くなるため,個々の患者に合わせたより綿密な介入法の検討が必要と考えた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,慢性呼吸不全急性増悪患者に対するPTについて,特にNPPV中の介入の報告は少ない中,離床やADLに対して一定の効果を示した。