抄録
【目的】 パーキンソン病(PD)の最多死因は肺炎であるが、喀痰喀出能力についての報告は少ない。今回、PDにおけるPCF(peak cough flow)とPF(peak flow)の、日常生活能力、重症度の乖離について調査、考察を行った。
【方法】 当院入院中のPD患者50名を対象とした。測定内容は1.PCF、PF:ピークフローメーターにフェイスマスクを接続しそれぞれ3回測定、2.PEmax、PImax:口腔内圧計を用いそれぞれ座位にて3回測定し、結果はいずれも最大値を採用した。また、3.起き上がりの可否:プラットホーム上での背臥位から端座位へ、左右それぞれ測定と、4.UPDRS、5.FIM、6.FAB、7.MMSも行った。著明なOFF時間帯を除いて、1~4は同一理学療法士が、5~7は各担当者が実施した。
統計処理は、SPSS Ver.11.5を用い、PCFと各項目間についてSpearmanの相関係数を求め、起き上がりの可否、およびHY stage間についてMann Whitney検定、Kruskai Wallis検定を行った。結果は全てp<0.01をもって有意とした。
【説明と同意】 研究への参加および結果の取り扱い等に関しては、ヘルシンキ宣言に則り、紙面を用いて説明し署名にて同意を得た。
【結果】 PCF、PFのいずれも測定可能であった者は43名で、内訳は男性19名、女性24名であった。平均年齢は75.1(61~91)歳、平均罹患年数は6.4(0~21)年、HY stageでは2が11名、3が18名、4が12名、5が2名であった。各測定項目の中央値はそれぞれ、1.PCF:190(60~590)ml/min、PF:150(60~490)ml/min、(PCF-PF)/PFは0.29、2.PEmax:40(1~112)cmH 2 O、PImax:20(0~84)cmH 2 O、3.起き上がりが可能であった者は32名(74.4%)、4.UPDRSではADL:13(5~29)点、運動機能:31(10~51)点、ONとOFFの差:41名(95.3%)が0点、5.FIMでは運動項目:60(13~87)点、認知項目:26(8~35)点、6.FABは12(3~17)点、7.MMSは25(10~30)点であった。
PEmax、PImaxとPCF、PFは、それぞれ有意な中程度の相関が認められた(r=0.503~0.669)。しかし、UPDRSのADL、運動機能はPCFと有意な中程度以上の相関が認められた(r=-0.708、-0.598)のに対し、PFとは弱い相関しかみられなかった(p<0.05、r=-0.337、-0.303)。同様に、FIMの運動項目、認知項目でも、PCFとそれぞれ有意な中程度の相関が認められた(r=0.632、0.617)のに対し、PFとは弱い相関しかみられなかった(p<0.05、r=0.400、0.321)。FABではPCFとのみ弱い相関が認められた(p<0.05、r=0.406)のに対し、PFとは相関関係が無く、MMS、年齢、罹患年数ではPCF、PFともに相関関係がみられなかった。
また、起き上がりの可否では、PCFで有意差が認められた(p=0.003)が、PFにはみられず(p=0.024)、同様にHY stage間でも、PCFで有意差が認められた(p=0.000)が、PFにはみられなかった(p=0.098)。
【考察】 咳嗽は深吸気後の声帯の閉鎖、急速な呼気といった協調的な運動が必要とされる。今回の結果では、PCFとPFは、PEmax、PImaxとそれぞれ有意に相関し、両者とも呼吸筋力の強さが必要であることが示された。しかし、PCFのみにUPDRS、FIMとの有意な相関関係や、起き上がりの可否、HY stage間の有意差が認められたことから、咳嗽能力には筋力のみではなく、PDの特徴的な症状である固縮や寡動、協調運動障害と、それに起因する自立度が影響すると考えた。
【理学療法学研究としての意義】 PDにおいては、努力性の呼気とは乖離した咳嗽能力の低下があり、その向上には多角的なアプローチが必要であることが示された。