抄録
【目的】心筋梗塞(MI)患者の二次予防に対する疾患管理として,禁煙は極めて重要な項目の一つとされている.しかし,健常者を対象とした調査では,禁煙後に体重が増加することに加えて,内臓脂肪の増加,血圧の上昇,血清脂質および血糖値の上昇を惹起することが報告されている.このため,MI患者においても禁煙指導後の体重ならびに体脂肪の変化を捉えて,再発予防に向けた指導を継続的に進めていく必要がある.ただし,健常者とは異なり,MI患者の多くは退院後においても身体活動時間を制限していることが多く,禁煙後の体組成の変化と身体活動時時間の関連についても調査し,指導内容を具体化する必要がある.そこで本研究は,入院期心臓リハビリテーション(心リハ)において禁煙指導を受け,退院後4ヶ月間の禁煙が徹底された患者の体重と体脂肪率の変化を調査し,退院後の身体活動時間との関連性を検討することを目的とした.
【方法】対象は,MI発症後に冠動脈インターベンションを施行し,入院期心リハを受けた75例とした.さらに対象をMI発症直後より禁煙を開始し,退院後4ヶ月間の禁煙が継続できた禁煙群(40例,平均年齢59.8歳,BMI 24.0)と,対照群として生来喫煙経験のない未喫煙者と発症1年以上前より禁煙している者を合わせた非喫煙群(35例,平均年齢62.3歳,BMI 24.1)の2群に分類した.除外基準は75歳以上45歳未満の患者,発症前1年以内に禁煙を開始していた患者,退院後に再喫煙した患者および退院後4ヶ月以内に再入院した患者とした.測定項目は,臨床的背景因子として年齢,性別,入院時の左室駆出率,入院後クレアチンキナーゼの最高値,在院日数,ブリンクマン指数および合併症を診療録より調査した.禁煙継続の可否を確定する目的で,呼気一酸化炭素濃度(CO)測定器(マイクロCOモニター)を用いてCO濃度を測定し,退院後4ヶ月時のCO濃度が7 ppm以下の者を禁煙者と特定した.体組成は体成分分析装置(In Body3.2)を用いて,退院時と退院後4ヶ月時の体重,体脂肪率およびBMIを評価した.また身体活動量の指標として,生活習慣記録器(ライフコーダーGS)を用いて退院後1ヶ月目以降に連続2週間測定し,運動強度が3 metabolic equivalents以上の身体活動を解析値として1日の平均運動時間を算出した.統計学的解析として禁煙群と非喫煙群における臨床的背景因子の比較はunpaired-t testとχ2検定を用いた.体組成の経時的変化の検討については分散分析,体重変化率ならびに体脂肪変化率と身体活動時間とのそれぞれの関連にはPearsonの積率相関係数を使用した.
【説明と同意】すべての対象者に本研究の目的を十分に説明し,解析データの使用について同意を得た.なお,本研究の調査に対する参加の可否が治療内容に影響しないことを加えて説明した.
【結果】臨床的背景因子については禁煙群と非喫煙群の間に有意な差を認めなかった.なお,禁煙群の退院後4ヶ月時CO濃度は全例7ppm以下であった.禁煙群の体重変化率は平均で2.6±3.4%,非喫煙群は-2.1±4.1%であった.禁煙群と非喫煙群の体重,体脂肪率およびBMIに有意な交互作用を認め(P<0.000),非喫煙群における退院後4ヶ月時の体重,体脂肪率およびBMIは退院時と比較し有意な減少(それぞれ,P<0.01)を認めたのに対して,禁煙群の体重,体脂肪率およびBMIは有意な増加を認めた(それぞれ,P<0.05).なお,退院後の身体活動時間は2群間に有意な差を認めなかったが,禁煙群における体重変化率と体脂肪変化率において,身体活動時間との間にそれぞれ有意に負の相関関係が認められた(P<0.05).
【考察】禁煙を徹底したMI患者の体重および体脂肪は退院後4ヶ月の間に有意に増加することが認められた.健常者における禁煙後の体重増加の要因として,視床下部における摂食中枢の解放による,エネルギー出納のアンバランスであると報告されている.本研究において2群間に身体活動時間の差異が認められなかったことから,禁煙群の体重増加は摂取カロリー量の増大が主な原因と考えられた.しかし一方で,禁煙群の体重変化ならびに体脂肪変化と身体活動時間との間にそれぞれ負の相関が認められたことから,食事療法の徹底だけではなく,身体活動時間を維持あるいは増加させることで禁煙後の体重の増加を抑制できる可能性が考えられた.体重増加は心血管イベント発生率を高めることが報告されており,MI患者に対する禁煙指導を効果的に進めるためには栄養指導に加え,積極的な運動療法の実施とその継続を促す必要性が示唆された.
【理学療法学研究としての意義】虚血性心疾患に対する二次予防対策として禁煙指導が単独に実施されることが多いが,理学療法士がこの二次予防対策の指導にも積極的に関わることの臨床的意義を提示できる.