抄録
【目的】一般にがん患者は症状の進行に伴い、身体の外見や機能に何らかの不可逆的な変化が起きる。また、その変化に伴いボディイメージも変化するとされている。同種造血幹細胞移植(以下、同種移植)患者では、その治療過程において、前処置としての超大量抗癌剤投与と全身放射線照射、クリーンルームでの長期間にわたる隔離や安静、さらに合併症としての全身倦怠感、悪心、嘔吐、下痢、食欲不振、不眠、移植片対宿主病(graft versus host disease; GVHD)などにより身体活動が制限される。その不活動により感覚運動経験が減少し、ボディイメージ、なかでも運動イメージが低下すると考えられるが、未だ詳細は明らかになっていない。近年、運動イメージの低下が転倒と関係があるとの報告がなされており、リハビリテーション(以下、リハビリ)介入により患者の身体活動量を維持し、運動イメージの低下を予防することが重要である。本研究では、同種移植患者において運動イメージが低下しているかを検証すると共に、移植後早期からのリハビリ介入により身体活動量を維持・向上することで同種移植患者の運動イメージが改善するかを検証した。
【方法】対象は、2008年2月~2009年5月の期間に当院にて同種移植を受け、運動イメージおよび身体活動量の評価が可能であった患者20名(男性13名、女性7名、42.1±11.6歳)であった。対象全員に好中球生着後より退院まで、ストレッチ、筋力トレーニング、ウォーキング、エルゴメーターを中心とした運動療法を実施した。運動イメージの指標として、mental chronometryを用いて20歩歩行の実際の動作遂行時間(actual walking time; AT)と心的にイメージした動作遂行時間(mental walking time; MT)を好中球生着後と退院時に測定し、実際の運動時間との誤差(MT/AT; M/A比)を求めた。また、身体活動量の指標として、歩数計(ライフコーダーEX; スズケン社)を夜間と入浴時以外可能な限り対象の腰部に装着して各日の歩数を測定し、好中球生着日から退院時までの平均歩数を求め、運動イメージとの関連性について検討した。統計解析は、好中球生着後M/A比と退院時M/A比の比較には対応のあるt検定を、身体活動量と運動イメージ各指標との関連性の検討にはPearsonの相関分析を用い、有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】本研究への参加の際には、研究の目的・方法および個人情報の保護について説明後、対象より同意を得た。
【結果】好中球生着後M/A比は1.46±0.18、退院時M/A比は1.24±0.14であった(p<.0001)。身体活動量(平均歩数)と退院時AT(r=-0.45, p=.048)、退院時MT(r=-0.73, p=.0003)、退院時M/A比(r=-0.76, p=.0001)、および退院時M/A比と好中球生着後M/A比の差分(r=-0.52, p=.02)に負の相関が認められた。
【考察】本研究の結果より、同種移植患者では好中球生着時に運動イメージが低下していた。また、身体活動量と退院時ATおよびMT双方に関連性が認められたが、実際の運動遂行時間よりも心的にイメージした運動遂行時間に強い負の相関が認められたことから、身体活動量は身体機能よりも心的イメージに強い影響を与えていると考えられ、身体活動量の維持・向上により同種移植患者の運動イメージが改善することが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】がん患者のボディイメージに関する先行研究では、化学療法を受けた患者の脱毛とボディイメージとの関係、乳がん患者の手術前後のボディイメージの変化や子宮全摘患者のボディイメージとセクシャリティに関する調査、大腸がん患者のストーマ造設の受容とセクシャリティ・ボディイメージの関係など多くの報告がなされているが、同種移植患者のボディイメージに関する報告はほとんど見られない。本研究にて運動イメージを評価することにより、同種移植患者においてもボディイメージが低下していることが明らかとなったことは非常に興味深く、また、リハビリ介入で身体活動量を維持・向上することにより、低下した運動イメージが改善することが示唆されたことは非常に有意義であると考える。