抄録
【目的】嚥下造影(Videofluorography:VF)に適切なシーティングを行うことは、その後の再現可能な日常生活に繋がり有益なものと考えられるが、介入についてのエビデンスは蓄積されていない。今回、当院でVF検査を実施した外来、入院患者の内、病名が脳梗塞である患者についてシーティング非介入群と介入群でVFチェア・リクライニング車椅子(R)・ティルトリクライニング車椅子(TR)、車椅子(ヘッドなし)、椅子の検査肢位に分類し、誤嚥率、口唇からのこぼれ率、咽頭残留率を比較検討したので報告し、シーティング技術を持つ理学療法士がVF検査に介入する有効性について考察する。
【方法】平成13年3月より平成21年7月までに当院でVF検査を受けた外来、入院患者の内、疾患が脳梗塞の患者でシーティング非介入群80例(男性33名 女性47名 平均年齢81.4±7.2)(平成13年~平成18年)、シーティング介入群141例(男性72名 女性69名 平均年齢80.3±11.5)(平成16年~平成21年)で誤嚥、口唇からのこぼれ、咽頭残留について比較検討した。シーティングの介入方法は、車椅子調整や足台、ウレタン、クッション、テーブルなどを用いて全身の姿勢調整を行った。車椅子は実際の生活の場で使用しているものを使用した。誤嚥の有無はSTと医師がVF画像を基に判定し、検査したすべての食材で一度でも誤嚥したものは(+)とし誤嚥率として表示した。口唇からのこぼれ、咽頭残留は少しでもあれば(+)として口唇からのこぼれ率、咽頭残留率として表示した。統計学的解析は、シーティング非介入群、シーティング介入群の年齢、男女間には対応のないT検定、誤嚥率、口唇からのこぼれ率、咽頭残留率の検定にはχ2検定を行った。検査姿勢3群の重症度分類の比較はKruskal Wallis検定及びMann-WhitneyのU検定とBonferroniの不等式による有意水準補正を行った。嚥下障害重症度分類のシーティング非介入、介入群比較は、Mann-WhitneyのU検定を行った。平均値は平均±標準偏差で示した。すべて有意水準は5%未満とし、解析にはPASW ver18 for windowsを用いた。
【説明と同意】倫理的配慮として養和病院の倫理審査委員会の同意を得た。 対象者にはVF検査の方法、リスク等の説明を医師から行い同意を得ている。レントゲン撮影施行職種は、医師及び放射線技師である。
【結果】 シーティング非介入群、介入群で年齢、男女差、嚥下障害重症度に有意差はみられなかった。誤嚥率は、車椅子群で有意差(p<0.01)を認めた。車椅子群ではシーティング非介入群16例中15例(93.8%)が誤嚥しており、シーティング介入群では35例中19例(54.3%)の誤嚥数であった。シーティング非介入群が有意に高かった。全体、VFチェア・R車椅子・TR車椅子、椅子使用では有意差を認めなかった。口唇からのこぼれ率は、全体と車椅子で有意差(p<0.05)を認めた。全体では、シーティング非介入群80例中36例(45.0%)、介入群141例中44例(31.2%)に口唇からのこぼれがあり、車椅子では、シーティング非介入群16例中8例(50.0%)、介入群では35例中6例(17.1%)に口唇からのこぼれがあった。VFチェア・R・TR、椅子では有意差を認めなかった。咽頭残留率は、すべての検査肢位で両群間に有意差を認めなかった。検査肢位VFチェア・R・TR、車椅子、椅子の間には嚥下障害重症度の有意差(p<0.01)を認めた。(VFチェア・R・TR群5.39±1.74、車椅子群6.53±1.54、椅子6.91±1.47)
【考察】当初、シーティング介入の効果は、VFチェア・R・TRの姿勢保持が困難である群で有意差が出ると予測していたが、実際には車椅子群で有意差が出現した。これは、VFチェア・R・TR群は姿勢保持能力が低下しており、嚥下障害重症度も5.39±1.74と車椅子群の6.53±1.54と差が大きく(p<0.01)どうポジショニングを工夫しても誤嚥や口唇からのこぼれが生じ易かった推察される。一方、車椅子姿勢での誤嚥率、口唇からのこぼれは、明らかな有意差(p<0.01)が出現した。これは、車椅子座位レベルで摂食可能な症例は、嚥下や口腔機能が姿勢に影響を受けやすいことを示しており、シーティング技術のEBMを示す意味でも興味深い。一般的には、上肢の動きなどHoffer座位能力2(JSSC版)レベルの方がシーティングの効果が出やすいと言われており、嚥下についても同じ結果が得られた。
【理学療法学研究としての意義】今回の研究ではシーティング技術を習得した理学療法士の介入により、誤嚥が予防できる可能性があり、摂食・嚥下リハビリテーションの中で理学療法士の必要性を示す意味でも意義深い。