理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-237
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一般演題(ポスター)
間質性肺炎を呈した症例に対する理学療法経験
山中 博紀井舟 正秀田中 秀明川北 慎一郎
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抄録
【はじめに】間質性肺炎(以下IP)は,肺間質に炎症が存在する進行性の疾患である.拘束性換気障害や肺拡散能低下を認める.呼吸理学療法は確立していないのが現状だが,運動耐容能やディコンディショニングの改善が期待されている.今回,IPを呈した症例を経験する機会を得たので報告する.
【説明・同意】本人に説明を行い本報告の同意を得た.
【症例】70歳代女性.身長151cm,体重50.4kg,BMI22.1.独り暮らしをされており日常生活動作(以下ADL)は独歩にて自立.職業は美容師.家事や買物も行っていたが頻回に休憩が必要であり活動範囲が制限されていた.
【経過】乾性咳嗽が出現し始めてから1年後,歩行時の息切れを認め近医を受診し当院内科に紹介される.入院加療を勧められるも仕事のためと本人拒否.18日後に症状悪化し近医に入院され,その3日後に当院へ紹介入院される.当院入院時SP-D361.4ng/ml,動脈血液ガス(以下BGA)は,pH7.407,PaO252.1Torr,PaCO241.7Torr,HCO325.7mmol/L,A-aDO249.8Torrであった.入院から3日間のソル・メドロール250mg/day治療後,プレドニゾロン(以下PSL)25mg/day治療開始される.入院10日後にリハビリテーション科受診され理学療法開始となる.精神機能として,HDS-R19点と記銘力低下を認め,病識欠如した発言が目立った.身体機能として,安静時SpO2はroom airにて95%であったが,6分間歩行試験は,歩行距離60m,歩行時間90秒でSpO2が78%まで低下し中断した.中断時の修正Borg Scaleは5であった.安静座位にて深呼吸を促すも浅速呼吸となりSpO2の回復に3分間を要した.問題点として,運動耐容能低下,活動制限が挙げられ,これに対して理学療法を施行した.プログラム内容は,四肢・体幹の筋持久力トレーニング,歩行練習の運動療法を主とし,リコンディショニングとして呼吸練習を行った.また,病識欠如していたため,理学療法中はパルスオキシメーターを装着してもらい,脈拍数,SpO2の変動を認識してもらった.入院1ヵ月後,PSLは10mg/dayまで漸減されたが,状態悪化し乾性咳嗽,38.1°Cの発熱,安静時SpO2低下を認め,BGAは,pH7.419,PaO251.8Torr,PaCO236.9Torr,HCO3‾23.5mmol/L ,A-aDO257.9Torrとなり,IP増悪疑いにて再度ソル・メドール250mg/day治療開始となった.3日後,全身状態改善しPSL25mg/day開始された.同時に経鼻にて2L酸素投与となったが,本症例は酸素投与に拒否的であり,病棟では酸素カニューラを外していることが多く看護師による説明が必要であった.理学療法は,酸素投与の有無によるSpO2の変化の違いを認識してもらい酸素投与の有用性を説明しながら継続した.room airでSpO290%を維持しながら連続25m歩行可能であったが,歩行後の安静坐位時に80%まで低下し回復に3分間を要した.酸素投与にて連続40m連続歩行可能となり,歩行後の安静坐位時のSpO2低下は88%にとどまり,その後も速やかな回復が得られた.入院から2ヶ月経過し,酸素投与量は2L継続,運動耐容能は理学療法開始時と比較し著変を認めない状態であり,院内ADLは独歩にて自立されている.主治医,看護師,医療福祉相談員,息子夫婦とのカンファレンスにより,今後,独り暮らしは困難と判断され療養型病院へ転院調整中である.
【考察】IPの特徴として肺拡散能低下により運動時低酸素血症が起こりやすく,低酸素血症を認めた場合には運動時に十分な流量の酸素投与が重要とされている.酸素投与により運動時呼吸困難は軽減され運動耐容能は改善し活動範囲の拡大に繋がると考えられる.本症例は,酸素投与にて連続歩行距離は延長し歩行後のSpO2の回復に要する時間は短縮した.しかし,酸素投与には拒否的な状態であった.これは,安静時SpO2はroom airにて比較的良好に保たれていること,運動中に著明なSpO2低下を認めないことから病態理解が困難な状態であったためと考えられた.理学療法では,room airと酸素投与での連続歩行距離の違いや,運動後のSpO2の回復の違いを認識してもらう必要があった.理学療法士として,歩行やADLにおける動作開始時,動作中,動作終了後のSpO2の変動を把握する必要があると思われた.
【理学療法学研究としての意義】IPは強い低酸素血症を認め活動が制限される.報告は散見されるも一致した治療見解がないのが現状である.様々な症例を提示することにより治療方法を確立していくことに意義を感じる.
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© 2010 日本理学療法士協会
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