理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-238
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一般演題(ポスター)
神経筋疾患に対するスポーツ吹き矢を用いた呼吸リハビリテーションの有効性について
河島 猛山本 洋史岩田 裕美子森下 直美宗重 絵美平賀 通松村 剛豊岡 圭子藤村 晴俊
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キーワード: 吹き矢, CPF, 神経筋疾患
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抄録
【目的】筋ジストロフィーなどの神経筋疾患では運動機能・呼吸機能・嚥下機能低下に伴い、肺胞低換気による呼吸不全に加えて、誤嚥性肺炎、沈下性肺炎など二次性肺障害のリスクが高くなる。この予防のため、われわれは従来から肺胞拡張訓練や咳嗽訓練を実施している。これらが効果を上げるには、質の高い訓練を継続的に実施することが不可欠であり、ゲームや遊びの要素を取り入れる事も継続性を高める上で重要である。
スポーツ吹き矢はビニールフィルム性の円筒状の矢を120cm(小児用100cm)の筒から吹き飛ばし、5〜10m先の的に命中させて得点を争う競技で、段位・級位認定や全国レベルの競技大会も実施されている。吹き矢は呼吸法や咳嗽法の習得に直接的に有効であるだけでなく、的を狙って筒を構えることによる姿勢の改善や集中力の改善、的に矢を当てることによる爽快感など精神的な効果も期待できる。ゲームの要素も高く楽しみながら行えること、段位・級位認定や大会参加などの目標も設定できるなど継続性が得やすいことが期待される。既にデイケアや一部の医療機関において、神経筋疾患患者に吹き矢を導入している施設もあるが、その効果を客観的に評価した報告はまだない。
そこでわれわれは吹き矢を用いた呼吸リハビリテーションが神経筋疾患患者にどのような効果があるか、障害者における導入にどのような工夫が必要か研究することを目的とした。
【方法】安定した病状の各種神経筋疾患患者を対象とした。除外基準は活動性の呼吸器感染症罹患者、吹き矢が筒から飛ばせない患者、気胸の既往がある患者、重篤な呼吸不全・心不全のある患者とした。内訳はPD4例、SCD1例、MyD1例、LGMD1例、GBS1例、脳炎後遺症1例、ミオパチー1例、CIDP疑い1例の計11例であった。平均年齢は51.0±25.0歳、性別は男性6名女性5名であった。
吹き矢訓練は日本スポーツ吹き矢協会の方法に準じて、患者の障害を考慮し以下の基準で各々工夫した。姿勢は立位を基本とするが、歩行器使用や座位も許容した。的の高さは立位160cm座位130cmを基本とした。的までの距離は5mから開始し、状況に応じて調整した。筒の保持は患者自身で筒を保持する事を原則としたが、上肢の筋力低下・振戦・失調などで保持が不可能な患者では支持台などを工夫して保持を援助した。筒の長さは120cmを基本としたが困難な患者ではより短い筒の使用も許容した。訓練量は5本を1ラウンドとし、休息を入れて疲労のない範囲で3ラウンドから5ラウンドまでの訓練を行った。
評価項目として簡易流量計を用いてFVC、ピークフローメーターを用いてCPF、呼吸筋力計を用いてMIP・MEPを訓練前後で測定した。
【説明と同意】研究の主旨について患者に説明し同意を得た。
【結果】姿勢は座位4例立位7例であった。的までの距離は3m1例4m3例6m6例8m1例であった。筒の保持は自身で支持8例介助3例であった。筒の長さを調整したのは1例であった。VC平均は2721.8±1014.0から2697.2±949.7mlで10%以上増加1例10%以上減少1例、CPF平均は312.2±118.0から385.9±218.0L/minで10%以上増加5例10%以上減少1例、MIP平均は44.0±24.8 から46.0±24.8 cmH2Oで10%以上増加4例10%以上減少3例、MEP平均は66.7±40.5から64.5±54.2cmH2Oで10%以上増加2例10%以上減少4例であった。全体的に楽しかった今後も継続したいという感想が得られた。
【考察】吹き矢を吹くには、大きな吸気から息をこらえながらマウスピースを加え、一気に呼出する事が必要である。これらは吸気筋・呼気筋の活動とそれに協調した声門開閉能力などが重要である。
吹き矢訓練を1回のみ実施した効果はVCに大きな影響を与えないがCPF、MIP、MEPに変化する例が多い。CPFは咳嗽能力の指標となる数値で、強い咳嗽には吸気後声門閉鎖し呼気筋を使用し声門を開放する必要がある。これは吸気筋・呼気筋の収縮力、声門開閉を含めた咽喉頭機能とそれらの協調性など様々な能力に影響される。CPFが改善した理由は吹き矢を吹くことがその一連の動きと同じであるため咳嗽技術の改善効果があったと考えられる。一方MIP、MEPは低下する例もみられた。低下した理由は吸気筋呼気筋に負荷があったことを示す。適度の負荷は筋力増強効果を期待できるが過負荷に注意しながら実施する必要がある。今後継続効果も検討したいと考える。
【理学療法学研究としての意義】神経筋疾患に対する呼吸理学療法は最大強制吸気量を得る練習と咳嗽能力を強くすることが重要とされている。これらをさらに充実させるためにレクリエーション的要素も含んだ訓練は重要で、その有用性を検討したことに意義があると考える。
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© 2010 日本理学療法士協会
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