理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-244
会議情報

一般演題(ポスター)
再発乳がんにおけるリンパ浮腫症例の治療経験
保延 良美
著者情報
キーワード: リンパ浮腫, 再発乳がん, QOL
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【目的】今回、再発乳がんにおけるリンパ浮腫症例を主治医と相談の上、外来にて担当する機会を得た。セルフケアの指導を中心として浮腫の悪化防止につとめていたが、病態の進行と浮腫の悪化、QOLの低下を認めた。外来頻度を増やしアプローチの変更を行うことで改善を認めた症例を経験したので報告する。
【方法】症例は61歳、女性。2007年2月に右進行乳がんの診断を受け、術前化学療法後、2007年10月に右乳房温存術、腋窩リンパ節郭清を施行。その後、残存乳房に対し放射線療法を施行。術後1年で鎖骨上、鎖骨下リンパ節転移にて再発し、1次化学療法(パクリタキセル)を開始。2009年2月に右前腕リンパ浮腫にて主治医の薦めで外来を初診し、リンパ浮腫の知識やセルフマッサージなどセルフケアの指導を中心に月1回の頻度で開始。この時期を前期とする。病態の進行により2009年5月に2次化学療法(ドキタキセル)、6月に3次化学療法(ゼローダ、エンドキサン)を開始。その頃、右前腕に炎症を伴うリンパ浮腫の悪化、QOLの低下がみられた。そのため、2009年7月から外来頻度を週1回とし、炎症の改善、浮腫の状態に合わせたセルフケアができることを目標とした。この時期を後期とする。後期の初めは炎症の改善を目的にセルフマッサージの中止、弾性スリーブの使用を中止し、冷却や安静を指導した。炎症が改善してからは体幹を中心としたリンパドレナージ、筋ポンプ作用を意識した運動療法、ほぐし手技を含めたセルフマッサージの指導、スリーブのサイズ変更など浮腫の状態に合わせてアプローチの変更を行った。今回、QOLの指標として腕のだるさ、浮腫の悪化に対する不安、衣服の3項目を用いた。
【説明と同意】症例に対して個人名や顔を出さず学会での発表や写真撮影にご協力いただくことの説明を行い、それに対しての同意を得た。
【結果】前期では浮腫はステージ1期初期であり、右前腕に軽度の圧痕、上腕内側、前腕内側に軽度の皮膚肥厚や線維化、前腕に軽度の張りがみられた。QOLでは動作後に軽度の腕のだるさ、浮腫の悪化に対する不安は軽度あり、衣服に問題はみられなかった。後期初めでは浮腫はステージ2期初期となり、肘関節周径は前期と比べ3.6cm増加、前腕、手背に圧痕がみられた。皮膚肥厚、線維化は後腋窩から手指にかけてみられ、前腕の強い張りと炎症がみられた。QOLでは動作後に腕のだるさが著名であり、浮腫の悪化に対する不安が強くなった。衣服は長袖を意識的に着ようになり、前期と比較してQOLの低下がみられた。後期のアプローチを開始して2ケ月後には浮腫はステージ1期初期となり、肘関節周径は悪化時よりも2.4cmの減少し、圧痕はみられなくなった。皮膚肥厚や線維化は前腕、手背には残るものの皮膚の柔らかさがみられるようになった。炎症は冷却せずに安静のみで改善できようになった。QOLでは腕の軽さがみられ、浮腫の悪化に対する不安も軽減されており、後期初めと比較してQOLの向上がみられた。しかし、右前腕を露出することに抵抗感があり長袖の意識的な着用は続いている。
【考察】外来における対応であるためセルフケアの習得が重要である。前期ではリンパ浮腫の知識やセルフマッサージなどのセルフケアの指導を中心としたアプローチを行っていた。この時期は一次化学療法が並行しており、精神的にも肉体的にも負担が大きい時期であった。外来頻度も月一回であったためセルフマッサージなどのセルフケアの習得が不十分であり、患肢を強い圧でマッサージするなど間違った方法が行われていたことがわかった。その結果、病態の悪化とともに炎症を伴うリンパ浮腫の悪化、QOLの低下がみられたと考える。そのため、後期では浮腫の状態に合わせたセルフケアの習得を目標とした。外来頻度を週1回にすることにより浮腫の状態を症例自身に把握してもらいながらその時に必要なセルフケアを細かく指導ができたことがセルフケアの習得につながったと考える。炎症が改善してからは体幹を中心としたリンパドレナージや運動療法を取り入れたことにより患肢に負担をかけずに排液効果を促したことや、リンパ節腫瘍の部分縮小によりリンパ液運搬能が向上したことも浮腫の改善が認められた要因であると考えられる。浮腫の改善がみられたことにより腕の軽さやリンパ浮腫悪化に対する不安が軽減され、QOLの向上につながったと考える。
【理学療法学研究としての意義】再発乳がんに対するリンパ浮腫症例に対して医学的治療と並行しながら外来頻度の増加やアプローチ方法の変更を行うことで、その時の状態に合わせたアプローチ、セルフケアの指導の重要性を知ることができた。そのことが浮腫の改善、QOLの向上につながったと考える。









著者関連情報
© 2010 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top