理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-245
会議情報

一般演題(ポスター)
終末期癌患者への理学療法実施による基本動作の変化について
谷口 知美大谷 直寛渡邉 学
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【目的】近年、終末期癌患者に対するリハビリテーション(以下、リハ)の役割が注目されており、その効果についての報告もされつつある。今回、終末期癌患者への理学療法(以下、PT)の効果について基本動作能力の変化に注目し検討した結果、特徴ある知見が認められたので報告する。
【方法】2008年4月1日から2009年7月31日までの期間にPTを行った入院中の癌患者から、死亡退院した30名を選択した。このうち、PT実施回数が5回未満例(2例)、整形外科的手術後例(4例)を除外した24名(男10名・女14名、平均年齢69歳)を対象とした。PT処方としては、ADL改善、座位・歩行訓練、離床促進、廃用予防、深部静脈血栓症予防、呼吸苦改善、浮腫改善であった。対象者のPT開始時から死亡までの基本動作能力(端座位、移乗または歩行)の変化を時系列で経過を追い、診療記録から後方視的に調査した。基本動作は、移乗と歩行はFIMの7段階を利用し、できるADLとして評価した。端座位は当院規定の7段階(PT介入下で獲得可能な端座位能力 0:未実施 1:保持能力が全く引き出せない 2:保持能力を僅かに引き出せ介助量を軽減できる 3:軽い支えが常に必要 4:軽い支えが時折必要 5:数十秒であれば目が離すことができる 6:自立)で評価した。それぞれ各項目で2段階以上向上したものを改善とした。
【説明と同意】当研究においてPTは診療行為の一環として同意を得、個人情報保護に最大限の配慮をして行った。
【結果】対象者24名はPT開始時から端座位保持が自立であった群(以下、自立群)14名とPT開始時は端座位保持不可能で臥床傾向であった群(以下、非自立群)10名の2群に分類した。自立群は端座位と移乗または歩行で評価し、14名中8名が歩行または移乗が自立に至った。残り6名は自立には至らなかったがうち3名は改善した。非自立群は端座位と歩行で評価し、全例においてどちらも自立に至らなかったが10名中8名は改善した。各群のPT期間中の基本動作能力の経過には特徴が見られた。その傾向として自立群における基本動作レベルの経過は14名中13名が変化の少ない「一定型」であった。それに対し、非自立群では10名中7名が、改善と悪化を複数回繰り返す「変動型」であった。両群の経過に違いはあったが、完全臥床直前の基本動作の低下は両群ともに急激であった。完全臥床状態となった時点から死亡までの平均日数は自立群で11日、非自立群で16日と差は見られなかった。
【考察】終末期癌患者におけるリハの役割として、辻は「ADLを維持、改善することにより、できる限り最高のQOLを実現するべく関ることにある」とあり、石田も「リハによりたとえ数ヶ月でも受け身でなく身体的にも精神的にもあるいは社会的にもQOLの高い生活を送れるよう援助するもの」と述べている。我々も同様に終末期癌患者に対し基本動作・ADLが重要と考えPTを実施してきた。自立群では、全身状態が安定し症状コントロール可能で、どのタイミングでPTが介入しても一定の訓練・動作を行うことができた。そのため基本動作の維持・改善に繋がりやすく「一定型」を呈したと考える。また十分な訓練効果も期待でき、この時期にADL向上への努力が重要であった。非自立群では、疼痛・呼吸苦・悪心・倦怠感等の訴えがあり症状コントロールが不良で全身状態に変動が見られた。臥床状態が続く中で症状軽快時にPT介入できれば動作訓練等の能動的訓練を実施できた。しかし症状増悪時には十分な訓練を実施することができないため「変動型」を呈したと考える。よって、非自立群ではPT実施において症状のコントロールとの関係が重要で、またPTの介入がなければ臥床状態が持続していたと予測される。一般的に終末期では病状悪化により身体機能の変化に「変動型」を呈すると報告されている。しかし、自立群では早期からのPT介入により基本動作能力が維持・改善していたため、完全臥床の直前まで基本動作能力は「一定型」の経過を呈したのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】癌終末期でも、廃用症候群による機能・能力低下の部分は多く存在し、基本動作能力の改善が期待できることがわかった。そのことからも、終末期癌患者へのPTを実施するうえで苦痛症状のコントロールと早期からの廃用予防が重要であり、他部署との連携はもちろん、苦痛症状が少しでも緩和されているタイミングでのPTの介入が重要と考える。
著者関連情報
© 2010 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top