理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-247
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一般演題(ポスター)
糖尿病教育入院中における食後血糖値改善の予測
関 貴子田村 拓也関 裕也
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抄録
【目的】糖尿病運動療法では、筋収縮による急性血糖降下作用や、運動継続によるHbA1cの改善など長期的な治療がもたらす効果については多数報告されている。しかし、運動を継続することで良好な血糖コントロールが得られることは分かっていても、限られた教育入院中に運動を含めた治療効果を得られるとは限らない。事実、入院中の運動療法において急性効果が十分得られても2週間では血糖コントロールがつかず、入院期間が延長になったり、治療に不安な思いを抱えたまま退院となるケースもある。限られた入院中の治療効果を予測することができれば、より患者に則した指導を行うことができるのではないか。そこで今回、教育入院中における運動開始5日後の食後血糖値改善を予測するために判別分析を行ったので以下に報告する。
【方法】対象は、2006年から2009年に某病院に教育入院し、運動療法を5日以上実施した2型糖尿病患者85例(男性53名、女性32名、平均年齢55.4±11.3歳、平均罹患期間5.7±6.2年)。全例、食事療法を実施しており、薬物療法は行っていないか、もしくは経口血糖降下薬服用者である。インスリン使用例、1型糖尿病、重篤な合併症を有する者は検討から除外した。運動療法については、1日1回朝もしくは昼の食後1時間に、20分程度の有酸素運動を理学療法士の監視下に行った。統計学的解析は、5日後の食後血糖値がコントロール良とされる180mg/dl(以下基準値とする)を下回るグループを判別するために、判別分析を行った。まず、グループ化変数として、5日後の食後血糖値が基準値を下回る群をグループ1に、上回る群をグループ2に分類した。独立変数は、年齢、罹病期間、肥満率(BMI)、HbA1c、尿中CPR、TG、HDL、初回食後血糖値、初回運動後血糖値とした。独立変数は病棟で行われた情報収集、身体計測、一般採血、採尿から得られた臨床データと、運動療法室にて対象者が自己測定した食後・運動後血糖値を用いた。そして、どの独立変数が判別を行う上で有意であるのか変数選択(ステップワイズ法)を行った。
【説明と同意】対象者には本研究の目的について説明を行い、同意を得た上で測定および運動療法を実施した。
【結果】判別分析(ステップワイズ法)の結果、初回食後血糖値と尿中CPRが抽出され、線形判別関数(標準化されていない係数)は初回食後血糖値が0.016、尿中CPRが0.011、定数が-4.861であった。これより0.016×初回食後血糖値+0.011×尿中CPR-4.861というグループ1と2を判別するための式が求められる。この式に各対象者の初回食後血糖値と尿中CPRを当てはめると、グループ1が負、グループ2が正の値をとる。そして、この式の正答率は62.4%であり、85名中53名を正しく判別することが可能であった。
【考察】結果より、運動開始してから5日後の食後血糖値が基準値を上回るか、下回るかという治療効果の予測が、運動初日の食後血糖値と尿中CPRによって判別できることが分かった。今回の結果は運動療法以外の治療法である食事療法や薬物療法を区別していないため、教育入院全体の治療効果となる。しかし、食後血糖値は筋の糖取り込みにより規定されるため、食後血糖値の改善における運動効果の影響は大きいと言える。我々は入院中に治療効果が予測できることで、急性効果のみに一喜一憂するのではなく、見通しを持ちながら患者に則した指導が可能になのではないかと考える。特に5日間では効果の期待できない患者については、運動継続による慢性効果やその重要性について重点的な指導を行うことで退院後の治療継続そして意欲向上につなげていくことができると考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究で抽出された食後血糖値や尿中CPRは特別な検査ではなく、糖尿病教育入院では必ず行われる検査である。身近なデータから、血糖コントロールを予測できることは特殊検査や患者の負担を強いることなく有効であると考える。そして教育入院中における短期的な食後血糖値の改善が予測できることは、入院中の指導内容・方法に違いを持たせ、より患者に則した指導を可能にすると考える。さらにその指導を通して退院後の治療継続や意欲向上につなげることができると考える。
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© 2010 日本理学療法士協会
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