理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-248
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一般演題(ポスター)
閉塞性動脈硬化症に対するバイパス術後の理学療法
術式別の検討
森沢 知之湯口 聡斎藤 和也松尾 知洋小野 晋也高橋 哲也石田 敦久
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抄録
【目的】
閉塞性動脈硬化症(ASO)患者の外科的治療の一つにバイパス術があり、Fontaine分類のIII~IV度の重症虚血肢や、II度で日常生活に著しい支障がある患者が適応となる。バイパス術後は患肢血行動態の改善により、足関節・上腕血圧比(ABI)や間欠性跛行の改善が期待される。
一方、ASO患者に対する運動療法の効果のエビデンスは高く、現在までに多くの報告がなされているが、その対象は保存的治療の患者であり、外科術後早期からの理学療法に関する報告は少ない。当院では平成18年よりASOのバイパス術後患者に対し、術翌日より理学療法を行なってきたが、術後、理学療法を進める上での標準的なプロトコールはなく、現在まで担当療法士の臨床的判断で進行が進められてきた。今後、バイパス術後の理学療法を計画的に進めていく上でも標準的なプロトコールの作成は重要と考える。今回我々は、ASOバイパス術後のプロトコールの一定の目安を提示する目的で、過去の理学療法の内容および進行状況を後方視的に調査し、術式別に検討を行ったので報告する。
【方法】
対象は平成18年10月~平成21年8月までの間に心臓病センター榊原病院心臓血管外科にてASOの診断を受け、バイパス術が施行された患者で術翌日より理学療法の依頼のあった23例である。全例、術前独歩可能であった。対象者を術式別に大腿動脈-膝窩動脈バイパス術〔F-P群〕11例(平均年齢73±6.9歳)、腸骨動脈-大腿動脈バイパス術〔I-F群〕7例(平均年齢78.3±9.2歳)、大腿動脈-大腿動脈交叉バイパス術〔F-F群〕5例(平均年齢72.6±10.6歳)とした。カルテより理学療法進行状況(術後座位開始日、歩行開始日、病棟歩行自立までの日数)、術後入院期間、術後合併症、術後CRP最大値(maxCRP)、患肢の術前、術後ABI値を後方視的に調査し、術式別に検討した。なお理学療法の内容は全例、術翌日よりベッドサイドで下肢自動・他動運動および基本動作練習(座位~歩行)を病棟で行い、病棟歩行が自立した段階でリハビリテーションセンターにてトレッドミルを使用した歩行練習を退院までの間実施した。
【説明と同意】
全ての対象者に本研究の目的を説明し、データの使用について同意を得た。
【結果】
術後の座位開始日数はF-P群で平均2.3±0.4日目、I-F群で2.1±0.3日目、F-F群で2.4±0.5日目であった。歩行開始日数はそれぞれ平均2.9±0.8日目、2.5±0.9日目、3.2±0.4日目であり、F-F群で少し遅い傾向にあった。病棟歩行自立までの日数はそれぞれ平均7±1.1日目、5.6±0.5日目、8.6±3.0日目であり、 I-F群で早く、F-F群で遅い傾向にあった。術後合併症は胆のう炎、貧血がそれぞれ1例でいずれもF-F群であった。maxCRPはそれぞれ平均12.4±7.6mg/dl、7.1±5.5mg/dl、8.7±5.5mg/dlでありF-P群で高い傾向にあった。術後入院期間は平均で22.5±5.4日、23.9±9.8日、18±3.5日でありF-F群で短い傾向にあった。患肢の術前後ABIの平均値はそれぞれ0.52±0.12→0.99±0.17、0.64±0.15→0.81±0.22、0.57±0.21→0.85±0.11であり、全群で術後ABIの改善がみられた。
【考察】
ASOバイパス術は術式により、切開部位や手術侵襲、術後管理が異なる。今回、術式別による理学療法の進行状況の検討を行なったが各群で大きな差はみられなかった。F-F群で座位開始日数、歩行開始日数、病棟歩行自立日が遅い傾向にあったが、F-F群では術後5例中2例に合併症を発症しており、そのため理学療法の進行が遅れたものと推測される。
今後、バイパス術後の標準的なプロトールの作成、外科術後早期からの理学療法介入の効果を明らかにする上でも、症例数を増やし、調査を継続することが重要と考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
今回、ASOバイパス術後早期からの理学療法の内容および進行状況を示した。ASO患者は年々増加しており、バイパス術を受ける患者も今後増加が予想される。ASOバイパス術後早期からの理学療法のエビデンスを構築する上でも、本研究は一定の理学療法の内容および進行の目安を示したものとして意義があると考える。

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© 2010 日本理学療法士協会
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