抄録
【目的】職務満足感とは従業員が仕事から直接得られるものであり、その具体的な要因を分析することにより、対象となる職務の実状や課題が反映されることが予測されるものである。また、職務満足感は、患者満足感との間に正の相関があることも報告されている。そこで本研究では、訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)における職務満足感と利用者満足感各々の構造を抽出した上で、両満足感の関連について調査することを目的とした。
【方法】関東圏内で訪問リハ医療に携わるPT、OTを、各都道府県が公開している介護サービス情報公開システムより無作為に抽出し、電話にて研究の承諾が得られた機関に、職務満足感質問紙と訪問リハ利用者満足感質問紙を郵送にて送付した。利用者満足感質問紙については、療法士より担当利用者に配布し、返送は利用者から直接、研究者に郵送するよう依頼した。なお、返送後の分析の一部は、療法士と担当利用者を一対一対応に組み合わせて行なうため、返送後に組み合わせが分かるよう、予め質問紙には療法士と担当利用者に共通の番号をふった。分析は、職務満足感と利用者満足感それぞれに対し,因子分析(主因子法、バリマックス回転)にて満足感因子を抽出した後、因子得点を使用して、療法士と担当利用者の満足感をクラスタ分析にて分類した。クラスタ分析にて分類された各群の因子や属性を比較することで得られた各群の特徴から、両満足感とその関連性を考察した。
【説明と同意】本研究は筑波大学人間総合科学研究科研究倫理委員会の承認(承認番号664)を受けて実施した。対象者には本研究の主旨を文書にて説明し,回答は自由意志であり、質問紙の提出の有無に関わらず不利益はなく、また個人情報に十分に留意する旨を記載した。
【結果】職務満足感についてPT、又はOT164名を因子分析した結果、「他者の評価」「目的・ゴールの共有」「専門性の理解」「自己評価」「訪問リハ回数」「仕事量と職場(部署)環境」「ニーズへの応答」「職場(部署)における受容」の8因子が累積寄与率55.2%にて抽出された。利用者満足感については54名を因子分析した結果、「サービスとしての満足感」「変化に対する満足感」「対応に関する満足感」の3因子が累積寄与率57.0%にて抽出された。クラスタ分析については、療法士と担当利用者の回答が揃った27組を分析した結果、職務満足感と利用者満足は4群に分類された。また、4群のうち他群に比べて高得点であった職務満足感4因子と利用者満足感2因子が、一つの群に集中していた。加えて、因子が集中していた群には、訪問リハ提供機関(訪問看護ステーションもしくはその他機関)に有意な偏りが認められた。
【考察】因子得点の高い職務満足感因子と利用者満足感因子が一つの群に集中したことから、この群は、職務満足感を得られている療法士と、利用者満足感の得られている利用者との組み合わせで構成されていると考えられた。したがって、職務満足感と利用者満足感が高い療法士と利用者との関係が存在することが考えられ、両満足感における関連が示唆された。また、両満足感が高い群には、訪問看護ステーションによる訪問リハが多かった。背景として近年増加傾向であるその他機関の訪問リハは、まだ十分な機能や整備が整えられず、療法士にとっても,利用者にとっても安定した満足感が得られ難いことが考えられた。【理学療法学研究としての意義】産業界で品質管理の方法論として導入されてきたTQM(total quality management)は、「品質を中核とした,全員参加の改善を重視する経営管理の1つのアプローチ」であり、医療分野においても有効に機能しうる。本研究は介護保険により選ばれるサービスである訪問リハを対象とし、職務満足感と利用者満足感の関連について研究したことから、TQMの観点からも今後の訪問リハサービスの品質向上に寄与することが考えられる。