抄録
【目的】
当院はベッド数270床の療養型病院である. 全入院患者の平均年齢は84.2歳、平均要介護度は4.56と高い. 他の療養型病院と同様、ほとんどが寝たきりだが、病棟では日中離床させるようにと車椅子乗車の機会は多い. そのトランスファーは機能的あるいは認知的理由により、中等度以上の介助が必要である. また、看護スタッフも経験のある者ばかりでない. よって看護スタッフに対し、効率や安全面を考慮し、入職時にリハビリテーション室において、全介助式トランスファー講習会を30分程度で実施している. 最初に車椅子操作や起居動作などの説明を行い、その後実技指導を個別に行っている. 今回は、この講習会についてのアンケート調査より今後の改善点を検討したので報告する.
【方法】
対象:H21年7月までに入職し、講習会を受けた看護スタッフ56名(看護師23名、看護助手33 名).
方法:質問紙による、無記名のアンケート調査を実施した. 内容はトランスファー経験の有無、講習会について、要望、病棟でのトランスファー事故などとした.
【説明と同意】
対象者には、アンケート調査前に十分な説明を実施し、同意を得た.
【結果】
回収率100%.回答に記入漏れのあった3名を除く53名を有効回答とした. 52名が講習会は役立っていると回答し、49名が説明はわかりやすいと回答した. 実施時期は、13名が入職して1~2週以上経ってからがいいとし、実施回数は、31名が複数回実施したほうがよいとした. また経験の有無や習得状況により回数を検討してもいいのではという意見もあった. 講習会への要望は「腰痛対策」37名、「患者個別のトランスファーが知りたい」23名、「全介助以外のトランスファーが知りたい」15名の順で多かった. 事故に関しては、起こしそうになったと回答が16名、起こしてしまったと回答が4名であった.その内容は、うまくトランスファー出来ず人の助けをかりたり、やり直しをした・ふらついた・フットレストに患者の下肢があたったなどであった.事故を起こしてしまった4名の内容は転落や骨折ではなく、全員が皮膚剥離であった.
【考察】
今回の調査より、現在実施している講習会は職種や経験の有無に関わらず役立っているという回答が多く、また当院のH20年1年間のトランスファー時の転落事故がゼロということから、有用性もあると思われる. しかし講習会の時期や回数、場所に関しての意見、要望も多かった. そして転落事故は起きていないが、ヒヤリとした経験のあるスタッフがいた. 以上のことより、講習会の改善案として、1:入職時には現行の内容に付け加え、ベッドやシートの高さなどの環境整備を含めた腰痛対策も考慮した講習会を実施する 2: それに追加し定期的なスキルアップ講習会を実施する. その際には患者個別のまたは全介助式以外のトランスファーの実施も可能な限り取り入れる、 という二点を検討していきたい.また要望からは、リハビリテーション科として病棟への患者の情報伝達が不足しているという反省点も見出せた. 今後、病棟との情報交換も内容や方法を検討することが必要と考える.
【理学療法学研究としての意義】
臨床現場では、各医療機関で職員教育の一環としてトランスファー講習会が広く実施されている. 急性期や回復期とは異なった療養型病床の特徴である「全介助式」を中心とした講習会を実施することによって得られた経験や問題点を、療養型病床はもとより、特養や老健などの介護施設等の職員教育に、広くフィードバック・展開していきたい。