抄録
【目的】近年、特別支援学校では児童生徒の障害の重度・重複化、多様化に伴い、一人一人に応じたきめ細やかな指導を行うために、教員だけでなくPT(理学療法士)・OT(作業療法士)・ST(言語聴覚士)等の外部専門家の活用を図ることが求められ、「教育と医療の連携」が課題として挙げられている。そこで、教育と医療の互いの役割を明確化し、より良い連携を図るために、特別支援学校に通学している児童生徒の保護者へのアンケートを行ったので報告する。
【方法】対象は平成21年10月20日から31日までに当院で理学療法を行った特別支援学校に通う児童生徒の保護者33名であり、小学部の保護者が19名(58%)、中学部が6名(18%)、高等部が7名(24%)であった。設問の概略は、所属学部、連携の必要性、連携の充足度、望まれる連携の形式、外部専門家に期待すること、教員に期待すること、これらに加え連携に関する自由記載の欄も設けた。
【説明と同意】個人情報保護のため氏名など個人を特定する事項の記載は不要であること、内容の検討および研究目的以外には使用しないことをアンケート用紙に明記し、同意の得られた場合に協力を依頼した。
【結果】連携の必要性について32名(97%)が「とても必要」と答えた。連携の充足度については「普通」が13名(39%)で「あまり満足ではない」もしくは「満足ではない」という回答は12名(36%)であった。「まずまず満足」は8名(24%)、「非常に満足」と答えた者はいなかった。望まれる連携の形式(複数回答)は「外部専門家が学校で行う勉強会の講師をする」の20名(61%)に続いて「教育、医療それぞれの目標や内容を互いに把握する」19名(58%)、「学校に外部専門家が配属される」「週1回程度、外部専門家が学校を訪問する」18名(55%) であった。逆に少なかった回答は「自立活動の時間に療育センターで訓練を行う」の6名(18%)であった。外部専門家に期待する役割についての上位項目は「個別の指導」24名(73%)、「教員への指導や助言」21名(64%)であった。一方で教員に期待する役割についての上位項目は「外部専門家との情報交換」23名(70%)、「個別の教育」22名(67%)であった。また自由記載においては、連携がより密になることを望む意見が多くみられた。
【考察】「特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申)」(中央教育審議会2005)には「学校内外の人材の活用と関係機関との連携協力」が課題として挙げられており、医師・看護師・PT・OT・ST等の外部の専門家の総合的な活用を図ることや、福祉、医療、労働など関係機関等との連携協力を進める必要があると明記されている。しかし、医療と教育の連携はこれまでの報告にも共通するように、連携への要望が高いにも関わらず不十分な現状にあり、今回の調査においてもやはり同様の結果となった。すなわち、教育と医療の連携が「とても必要」と答えた者は97%にのぼり、保護者においても連携の必要性を強く感じている一方で、その充足度については満足していない傾向にあった。岐阜県では特別支援学校に外部専門家は配属されておらず、週一回程度の学校訪問、自立活動の時間の療育センター利用、学校で行われる勉強会の講師といった形式で連携を図っている。調査の結果より、保護者の望む連携の形式で最も多かったのは「学校で行う勉強会の講師」であった。このことは外部専門家の役割を問う質問での「教員への指導・助言」という意見が多かったことを反映しており、児童生徒の障害の重度重複化に伴い教員にも医療に関する専門性が必要となっている現状がうかがえた。また「互いの目標や内容を把握する」や「学校に外部専門家が配属される」という意見が多かったことに対し、「自立活動の時間の療育センター利用」は少なかった。このことは実際に学校の生活場面において実態を把握し、一人一人に応じた個別の指導を期待する保護者が多いと考えられ、自由記載においても同様な意見が多くみられた。北原は連携の課題として、共通目標の確認や役割分担の検討を十分に行った上での情報交換をすることを挙げ、医療と教育の異質な点を明確に理解しあい、互いの不足部分を補うことが必要としていた。今後、互いの専門性を活かした連携がさらに深まるよう環境の整備が望まれる。
【理学療法学研究としての意義】特別支援学校における教育と医療の連携を深める方向性が打ち出され、今回の調査においても連携を望む声は多く、今後PTが果たす役割は拡大していくと考えられた。教育と医療の間の相互理解を深めつつ、互いの専門性を高めそれを活かすことでより良い連携を図り、学校現場・生活場面における、児童生徒一人一人とその保護者のニードに応えていく必要があると考えられた。