理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-219
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一般演題(口述)
下肢のマッサージがデイサービス利用高齢者の心理および生理状態に及ぼす影響
山口 育子山崎 卓也長田 久雄
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抄録
【目的】
近年、高齢者の健康増進や介護予防を目指して、生活指導や運動指導等さまざまな取り組みがなされている。それと同時にマッサージや足浴など、患者や施設利用者の安楽やリラクゼーションを目的とした取り組みが行われている。マッサージの研究は各分野でなされ、その効果や生理反応のメカニズムが明らかになってきた。しかし、マッサージの目的や用いる手技、部位に関してその技術体系が多岐にわたる上、経験則によるところが多い。また対象は若年者や疼痛や手術後の患者が多く高齢者を対象にした研究や若年者との比較をした研究は少ない。今回、若年者と高齢者に下肢のマッサージを行い、生理面・心理面にどのような変化をもたらすかを検証する。特に、高齢者は加齢による生理機能の変化を受けているということに着目し、そのマッサージ効果が若年者と比較していかなるものかを明らかにする。
【方法】
対象は健康な成人女性20名(22.8±6.4歳)と介護予防デイサービスを利用している高齢女性15名(74.0±4.0歳)とした。環境は室温、湿度、照明、音を一定に設定した室内で実施。対象者は実験室入室後POMS短縮版に取り組み、ベッド上に仰臥位となり安静5分後に筋硬度、皮膚温、血圧を測定し、心電図の解析を開始する。マッサージは30分実施し、終了後、仰臥位のまま筋硬度、皮膚温を再度測定し、5分後に心電図、血圧計をはずしPOMSに回答してもらう。マッサージは軽擦法を中心とした一定の手技を用いた。
指標の測定方法は、心拍数、血圧は左上腕部に自動血圧計(オムロン)を装着し5分間隔で測定、筋硬度はNEUTONE TDM-NI/NA1にて、左下腿後面、左下腿前面、左肩の3部位を前後に測定した。表面皮膚温は表面温度計RayTemp8(ETI Ltd)にて、足底・下腿後面・手掌部の3部位を前後に測定した。自律神経機能は、心電計(LRR-03、GMS)にて心電図を測定し、同時に心拍ゆらぎ解析システムMemCalc/Tarawa(諏訪トラスト社)にて解析し、副交感神経活動の指標に高周波成分(HF)、交感神経活動の指標にLFとHFの比(LF/HF)を用いた。気分の評価は、30問のPOMS短縮版を用いた。
分析方法は各測定項目について二元配置分散分析にて、独立変数「マッサージ前・後」もしくは「安静時・5分後・10分後…30分後」と、「若年者・高齢者」について、それぞれの主効果と交互作用を分析した。
【説明と同意】
倫理的配慮として、被験者に対して文書および口頭での研究の主旨、実験方法、実験への参加協力の自由意思と拒否権、プライバシー及び個人情報の保護について説明し、同意を得た。
【結果】
心拍数・血圧:若年者と比べ高齢者が有意に高かった。また、若年者・高齢者それぞれの経時的な変化も、実施前と比較してすべてにおいて有意に低下した。交互作用はみられなかった。筋硬度:若年者と比べ高齢者のほうが有意に低かった。また、若年者・高齢者それぞれの前後比較も3部とも有意に低下した。交互作用はみられなかった。表面皮膚温:若年者・高齢者ともにマッサージ実施前後の変化は、3部位とも実施前後で有意に増加した。また交互作用が存在した。自律神経機能:LF/HFは高齢者のほうが有意に高く、LF成分、HF成分は有意に低かった。LF/HFは、若年者、高齢者ともに有意な低下が見られた。交互作用は見られなかった。気分の評価:若年者では「緊張―不安」「抑うつ―落ち込み」「疲労」「混乱」が実施前後で有意に低下した。「怒り―敵意」「活気」は差がなかった。高齢者では、「緊張―不安」「疲労」「混乱」が有意に低下した。
【考察】
今回用いたマッサージは、触・圧覚受容器に対して適刺激を入力することになる。これにより、皮下や皮下組織の局所循環を促進し、皮膚温の上昇をもたらし、さらに、自律神経系への作用が交感神経の緊張を低下させ、心臓副交感神経が優位になった結果、心拍数、血圧、LF/HF、筋硬度が低下したと考察できる。若年者と高齢者の比較から、自律神経機能に差がある高齢者においても、マッサージの結果得られた心拍数の低下や血圧の低下等の生体反応および心理面は、若年者と同様なものであったと考える。心理面ではストレス情動といわれる「緊張―不安」、「抑うつ―落ち込み」の得点とストレスと正の相関がある「疲労」の得点の低下と併せて、ストレスの緩和つまり心理的にリラクゼーションできたと考える。
【理学療法学研究としての意義】
簡便さのあるマッサージのリラクゼーション効果が明らかになり、併せて有効な下肢のマッサージ技法が確立されることで、高齢者や患者のストレスや痛み、緊張を緩和することができ、活動量やQOLの向上をもたらす一助となると考える。
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© 2010 日本理学療法士協会
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