理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-222
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一般演題(口述)
ステップエルゴメーターのアイソキネティック運動時における仕事率と身体機能との関連
水本 淳鈴川 芽久美島田 裕之
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抄録

【目的】
高齢期には速筋線維の萎縮が著しく,等尺性収縮より高速度でのアイソキネティック運動時の筋力低下が著しい.しかし,アイソキネティック運動時の筋力測定には高価な機器が必要とされ,誰もが測定できる状況にはない.本研究では,運動療法機器であるステップエルゴメーター(Biostep,BIODEX)を用いて,地域在住高齢者におけるアイソキネティック運動時の仕事率と身体機能評価の関連について調べることを目的とした.
【方法】
地域在住高齢者女性12名(年齢78.3±2.6)を対象として,ステップエルゴメーターを用いた筋力測定と身体機能検査を実施した.
筋力測定はアイソキネティックモードで,目標回転数を60回転,90回転と設定し,それぞれ1回ずつ全力で15秒間駆動するように指示した.各回転数では目標回転数に達するように事前に十分な練習を行った.筋力の指標とした駆動時の仕事率(W)は,解析ソフト(SpErgo2,酒井医療株式会社)を用い,駆動開始から1秒毎に仕事率を測定した.身体機能評価として,等尺性最大筋力,Timed up and Go Test(以下TUG)の測定を行った.等尺性最大筋力はハンドヘルドダイナモメーター(μTasF-1,Anima)を用い,膝関節90度の椅子座位での等尺性収縮による最大膝伸展筋力,最大膝屈曲筋力(N)を測定し,アームの長さ(m)を乗じ,体重で除した値(Nm/kg)を解析値とした.TUGは椅子座位から3m往復歩行の所要時間を計測した.
解析はステップエルゴメーター駆動時に目標回転数に達した後に生じたピークの仕事率を代表値とし,各身体機能評価との関係についてPearsonの相関係数を算出した.次に,TUG時間を従属変数とし,仕事率(60と90回転),膝伸展,膝屈曲トルクを独立変数としたステップワイズ重回帰分析を施行した.
【説明と同意】
本研究は東京都健康長寿医療センターの倫理審査委員会の承認を得ており,対象者には本研究の主旨と目的,方法を十分に説明し,書面による同意を得た上で測定を実施した.
【結果】
ステップエルゴメーター60回転の仕事率とTUG,膝伸展トルクで有意な相関(それぞれr=-0.672,r=0.893)を認め,90回転の仕事率とはTUG,膝伸展,膝屈曲トルクで有意な相関(それぞれr=-0.890,r=0.716,r=0.638)が認められた.また,TUG時間は仕事率に加え,膝伸展トルク,膝屈曲トルクとの相関を認めた(それぞれr=-0.729,r=-0.639).
TUG時間を従属変数とし,60回転,90回転の仕事率,膝伸展,膝屈曲トルクを独立変数としたステップワイズ重回帰分析では,TUG時間に関連する項目として90回転の仕事率が抽出され,高い重決定係数(R2
=0.792(p<0.05))を示した.
【考察】
アイソキネティック駆動時の仕事率のピークと身体機能評価との関係は,60回転時にTUG時間,膝伸展トルク,90回転時にTUG時間,膝伸展,膝屈曲トルクとの高い相関を認めた.ステップエルゴメーター駆動は下肢の複合的な運動であるため,下肢の主要な筋群である膝の伸展筋,屈曲筋と有意な相関を示したものと考えられる.この結果は,ステップエルゴメーターを用いた筋力測定が,対象者の筋力を反映した指標として用いることが出来ることを示唆している.
また,TUGの所要時間を従属変数としたステップワイズ重回帰分析では,90回転の仕事率が有意な変数として抽出された.これはTUGの所要時間が,膝伸展トルクや膝屈曲トルクのような単一の筋の静的な活動よりも,ステップエルゴメーターの駆動のように下肢筋群の動的状態での筋力と高い関係にあることを示唆したものと考えられた.また,エルゴメーターの仕事率は角速度とトルクで表わされるため,静的なトルクに加えて,より速く関節を回転させるための筋の機能,すなわち高齢期に顕著な低下を示す速筋の働きを反映した指標であると考えられる.重回帰分析で,より速い回転数の仕事率がTUGと関連したことは,速度を要求されるパフォーマンス課題には高速域での筋出力を高めることが重要であることを示唆している.これらの結果から,ステップエルゴメーターを用いた筋力評価は,高齢者の筋機能を評価する指標として妥当であると考えられた.
【理学療法学研究としての意義】
TUGは地域在住高齢者の転倒予測として有効であるとされており,理学療法の身体機能評価として頻繁に用いられている.TUGと高い関連が認められた仕事率による筋機能評価法は,高齢者の重要な身体機能を説明する指標として有益であると考えられ,運動処方の検討や予測指標としての活用が期待できる.この指標の妥当性を示した本研究は,理学療法研究として意義あるものと考えられた.

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© 2010 日本理学療法士協会
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