理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-223
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一般演題(口述)
回復期リハビリテーション病棟退院前から退院3ヶ月後までの身体活動時間の変化について
家庭内及び社会的役割の有無との関連性
纐纈 良畔柳 清香矢崎 進勝水 健吾
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抄録

【目的】
現在の医療制度下でのリハビリテーション(以下リハビリ)は診療報酬上,標準的算定日数や回復期リハビリテーション病棟の入院上限日数等が定めら高齢者の場合,介護保険へ移行するように促されている.しかし,リハビリは単に退院することが目標ではなく,その人らしい生活を送るため,疾病予防,介護予防のためとすることが原点であり退院後の生活においても身体活動量の維持向上を目指すことが必要であると考える.しかし,入院中の身体活動量を把握することや退院後どれくらいの身体活動量が必要か提示することはほとんど行われていないのが現状である.その理由として健康高齢者であれば歩数を指標とした身体活動量管理方法が検討されているが歩行障害を伴い歩数が正確に測定できない者は歩数を使った指標ができないからである.また,入院生活は個人生活行動の制約された中での生活であるが,退院後というのは家庭内及び社会的役割によって生活必需行動,家事や就労などの社会生活行動,趣味などの自由行動と様々な行動様式から形成されている.そこで,身体活動量を加速度センサ内蔵の生活習慣記録機ライフコーダーPLUS(スズケン社製)を用いて身体活動時間を算出し,家庭内及び社会的役割の有無と経過時期との関連性について調査した.
【方法】
当院の回復期リハビリテーション病棟に大腿骨近位部骨折で入院した者のうち在宅復帰できない者,退院後当院へ通院が困難な者を除いた14名(男性2名,女性12名,平均年齢79.6±6.2)を対象とした.家庭内及び社会的役割を退院3ヶ月後の時点でのADLから生活必需行動中心群(以下生活群),社会生活自由行動群(以下社会群)に分けた.生活群7名(男性1名,女性6名,平均年齢81.6±7.3),社会群7名(男性1名,女性6名,平均年齢77.6±4.6)である.身体活動量の計測としてライフコーダーを退院直前,退院直後,退院1ヶ月後,退院3ヶ月後にそれぞれ7日間装着してもらい身体活動時間を出した.併せて行った生活行動調査から体調不良や非日常生活と判断される日を除外し集計した.また,ライフコーダーは運動強度を0~9までの10段階でカウントするが,0と0.5を除いた1~9までのデータを使用した.統計学的処理として家庭内及び社会的役割の有無(生活群,社会群)と経過時期(退院直前,退院直後,退院1ヶ月後,退院3ヶ月後)との2因子にわけて二元配置分散分析を行った.また,退院前の値を生活群と社会群で対応のあるt検定を行った.
【説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき本研究の趣旨を患者とその家族に十分説明した.参加への自由意志を尊重した上,理解納得されたことを同意書に署名して頂いたのちに実施した.
【結果】
生活群の平均身体活動時間(分±標準偏差)は退院直前58.8±48.4,退院直後48.7±34.4, 退院1ヶ月後61.3±40.7, 退院3ヶ月後48.5±30.0であった.社会群は退院直前151.1±52.4,退院直後144.4±91.1, 退院1ヶ月後200.1±84.6, 退院3ヶ月後220.9±67.6であった.生活群社会群の群間において有意差があり(P<0.01),経過時期においても有意差があった(P<0.01).さらに2因子間で交互作用があった(P<0.01).また,退院前の身体活動時間は社会群に比べ生活群のほうが有意に低値であった(P<0.01).
【考察】
入院時より生活群は社会群に比べ身体活動時間が少ないこと,退院後も身体活動時間の差が少ないことから入院時により積極的な身体活動時間の増加を目指す必要があり,単に退院を目標とするADL練習だけでなく,家庭内役割として社会生活行動,自由行動を構築していくという視点を持ってアプローチすることが重要でないかと思われる.また,退院後には身体活動時間の維持を図るためにも介護保険サービスを利用して身体活動時間を維持向上させるべく介護プランを考えていく必要がある.一方,家庭内及び社会的役割を持っている場合はADLの改善のみならず退院後の役割を想定して退院後実践すべき問題を抽出するなどにより早期に役割を担える身体活動量を得られる可能性がある.
【理学療法学研究としての意義】
現在,介護保険下では退院後の生活を支えるリハビリの受け皿が十分とは言える状況ではない.従って,医療機関の理学療法士は退院後の生活を見据えた上でのアプローチが必要ではないだろうか.そのためには入院中はもとより退院後の身体活動時間という一指標を用いて評価していくことが有効であると考えられる.また,今後の理学療法の発展にはより高いレベルの臨床技術の習得は欠かせないが,医療機関の理学療法士の考え方として,治療中心の理学療法からヘルスプロモーションの観点を取り入れた理学療法への変革を目指す必要もあると考える.このことは理学療法の職域や社会ニーズの拡大へつながり保健・医療・福祉において理学療法がさらに発展する糸口のひとつになるのではないだろうか.

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© 2010 日本理学療法士協会
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