抄録
【目的】
車いすを使用する際、坐面上にクッションを用いることは褥瘡予防の観点からも推奨されている。しかし、クッションの使用方法を間違えると褥瘡等の二次障害のリスクが高まる事が予想される。そのため、本研究ではクッションの向きの違いによる坐圧の変化を測定し、クッションの使用方法を検討した。
【方法】
対象は健常成人17名とした(男性8名、女性9名:平均身長168.4cm・平均体重59.9kg)。
低反発系としてテンピュール(テンピュール社製)、ジェル系としてEXGEL(加地社製)、エア系としてロホハーモニー(ロホグループ社製)の3種類のクッションに坐り、Xセンサー(ロホグループ社製)を用いて坐圧を測定した。記録はクッションの沈み込み等を考慮し、坐圧が安定してから行い、ロホハーモニーは、空気圧を坐骨部直下で手指の第一関節が曲がる程度として行った。
測定坐位姿勢は両上肢を組み、背を伸ばし、両下肢は下垂位とし、殿部はクッションの後方に位置するようにした。
クッションは正しい向きを「通常」、90°時計回りに回転させた方向を「側面」、180°回転させた方向を「後面」、通常を裏返しにした状態を「裏面」とした。
それぞれ圧分布から125mmHg以上のマス目を数え、通常とその他の向きを比較した。統計処理はt検定を用いて、5%未満を有意水準とした。
我々は、測定前に以下の仮説を立ててから測定を始めた。
通常と比較すると、テンピュールは前後左右で材質に違いがないため、向きの違いで有意差は無い。EXGELは裏面が滑り止め構造になっているため、坐圧が高まると考え、裏面との比較で有意差がある。ロホハーモニーはアンカー機能を有しており、坐面前後左右に高低差が生じるため向きの違いで有意差があるとした。
【説明と同意】
検者は被験者に対し、紙面にて本研究の目的や方法を説明し、口頭にて同意を得た。
【結果】
テンピュールは側面(p<0.05)・後面(p<0.001)で通常との有意差を示した。EXGELは裏面でのみ有意差を示した(p<0.05)。ロホハーモニーは後面(p<0.001)と裏面(p<0.05)で有意差を示したが、側面では有意差が認められなかった(p=0.09)。側面の圧分布より左右への変位が見受けられたため、次は通常と側面の圧分布を、殿裂を境に左右に分け、左右の圧の差の絶対値を、通常と側面で比較すると有意差を示した(p<0.01)。
【考察】
テンピュールでは仮説と異なり側面・後面で有意差を示したが、これはクッションに前後左右での材質の違いが無いため材質の劣化等が原因と考える。
EXGELは裏面で有意差を示した。これは、仮説通り裏面が滑り止め構造で、他面より素材が硬いため、圧が高まる原因になったと考える。
ロホハーモニーは後面と裏面で有意差を示した。これは、前の部分が高くなっており前滑りを防ぐアンカー機能を構成している前部と裏面のウレタン素材が坐骨部に当たり、圧が高まったと考えられる。側面で有意差が認められなかったのは、今回クッション全体の圧の変化を追ったため、側面での左右の高さの違いが結果に現れなかったと考えた。そこで、通常の左右差の絶対値と側面での左右差の絶対値をそれぞれ比較したところ、有意差が認められた。これは、その人特有の姿勢反応により左右への重心移動が生じたため、全体の圧の変化は少なかったが、左右の変化量は大きくなったと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により、クッションの向きによって、素材が違う製品では、通常の向きで使用しなければ圧が高まる可能性があることが分かった。さらに、坐面に高低差があるクッションでは通常の向きで使用しなければ圧の高まりと共に不良姿勢の一因となるとも考えられる。
臨床において、クッションの性能を十分に発揮し、褥瘡などの二次障害を防ぐために、正しい向きで使用しなければならないことは認知されているが、データ上からもクッションを正しく使用する必要性が改めて証明されたと考える。