理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-210
会議情報

一般演題(ポスター)
障害者自立支援法補装具費支給制度におけるケース担当療法士理由書導入効果と課題
座位保持装置を中心に
佐藤 征之山崎 大木檜 晃
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【目的】身体障害者更生相談所(以下身更相)では補装具の判定を行うが、座位保持装置では判定のための評価が多岐にわたり、相談当日充分行えない。第43回日本理学療法学術大会で、障害者自立支援法補装具費支給制度における「ケース担当療法士理由書様式(座位保持装置、車いす、電動車いすについて)」(以下理由書)を提案した。その後、埼玉県身更相では可能な範囲で病院等のケース担当療法士より提出され、生活環境、身体状況、補装具の評価が身更相での判定時に活用されている。理由書導入によって得られた情報と課題を整理し、報告する。【方法】埼玉県身更相に提出された療法士意見内容を平成18年度と20年度(理由書導入平成19年11月)で比較した。例も挙げ、課題を考察した。【説明と同意】結果については個人が特定できないよう配慮した。例については本学会発表の趣旨を説明し、ケース、家族に同意を得た。【結果】1.理由書導入前後の比較
埼玉県身更相での座位保持装置についてのケース担当療法士からの意見は導入前の平成18年度に66ケース中18ケースで提出された。導入後の平成20年度に51ケース中21ケースで提出、その内16ケースで理由書にて提出された。
導入前は自由形式のみで提出され、主な内容としては選択した補装具の説明であった。提出された18ケース中、生活環境や介助方法については4ケース、身体状況評価では9ケース、その内座位能力評価は4ケース、下肢の可動域評価は6ケースでみられた。補装具の試しは7ケースで実施されていたが、選択の根拠は不明なケースが多かった。製品パンフレットのみの提出もあり質、量ともに統一性に欠けていた。
導入後、理由書での提出16ケースでは生活環境や身体状況、補装具の試しやその結果、座位の写真、接触圧データ等の情報が増加し、生活環境、身体状況評価とも16ケースでみられた。生活環境では、座位保持装置の使用場所として自宅内外や施設内外で食事や移動時利用が多かった。介助方法や移乗方法も具体的に記載されていた。座位能力評価は15ケース、下肢の可動域は9ケースで情報提供された。変形、褥瘡等座位時影響される情報も増加した。補装具の試しとその結果では14ケースで現物または工夫して同条件にて試し、その結果が報告された。選択の根拠として接触圧データの提出が7ケースあった。生活環境と身体状況評価から適した補装具数種類を試し、比較検討結果の提出も若干みられた。
2.例
在宅の身体障害者が自宅内外で利用する、座位保持装置付き車いすの作製を希望、市へ相談された。行政の理学療法士(以下PT)が自宅へ訪問し、乗車時間や場所、自宅内外の動線、介助方法、自動車への乗車方法等を確認した。主治医に報告し、身体状況と座位保持装置評価を外来PTにて実施した。食事や移動時頸部体幹の保持と上肢機能を活かすことを目的とした。座位保持装置は生活環境、身体状況から想定される数種類を試し、推奨されるものを自宅内外で試した。不都合がないことを確認し理由書を作成、身更相へ提出し判定時に活用された。【考察】理由書導入によりケース担当療法士の評価が判定時に届くケースが増加した。評価内容も充実し、判定時活用されている。
課題について以下列挙する。
理学療法の一環として座位保持装置を検討する場合、導入の目的を明確にし、具体的な目標をたて、アプローチした結果をケースや家族等へ情報提供することが基本といえる。理由書導入前後とも目標設定についてケース独自の生活に密着したものは少なかった。今後はICFやQOLの観点から、生活に密着した目標設定が必要になる。
根拠に基づく理学療法の観点から、補装具選択時も当然根拠を示すことが求められる。座位保持装置についても客観的データの蓄積が必要だが、座位保持装置作製時の身体状況評価項目が確立しているとは言い難い。接触圧データの提出が若干あるが、データ蓄積の基礎となる姿勢評価については写真に頼る現状で、座位時の姿勢表記法の確立が望まれる。
近年、座位保持装置等の種類が豊富で、選択に苦慮することが多い。制度理解のもと、可能な範囲での試用評価が重要になる。
生活上の困りごとが補装具のみで解決するとは限らない。近未来を想定した補装具選定と導入に伴う介助方法・体制、他の福祉用具、住宅改修等も評価対象にする必要がある。
補装具使用中のフォローアップ体制も不充分である。【理学療法学研究としての意義】座位保持装置導入時の評価は多岐にわたり、根拠ある選択は困難な状況である。ケースや家族、主治医、支援者、製作業者や行政機関と関係する人、部署も多い。その中でPTの専門性を発揮し、他職種にも納得できるような理由書を作成することで連携や共通理解が促進され社会貢献に繋がると感じている。更なる職域確保に繋がるよう諸課題を解決していきたい。
著者関連情報
© 2010 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top