理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-222
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一般演題(ポスター)
気管切開を希望しなかった筋萎縮性側索硬化症の一症例
飯田 佳世渡邊 宏樹
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抄録
【目的】
訪問リハビリにおいて筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)の発症から17年経過し、初めてリハビリテーションを受ける症例を担当する機会を得た。上肢機能はほぼ全廃しており、日常生活すべてに介助を要した。呼吸機能、嚥下機能の低下も進行しており、肺炎のリスクが高い状況であった。
筋萎縮性側索硬化症の方が在宅生活を希望された場合、本人、家族の身体的、精神的負担を解消するために理学療法士にどのようなことができるか検討し、他職種との連携を強めるために報告する。

【方法】
後方視的調査により、サービス内容、他職種との連携について検討した。

【説明と同意】
本人には確認できない状況であったため、家族に本報告の目的と概要、後方視的調査であり診療情報を使用すること、又、個人が特定できる情報についてはふせることでプライバシーは完全に保護されることを説明し同意を得た。

【結果】
対象症例は68歳、男性、平成4年に発症した上肢型ALSの症例で日常生活のすべてに介助が必要な状態であった。認知症のため詳細な意思決定が困難であり、呼吸器を使用しないという方針以外のサービス内容の決定は家族の意向に沿って行った。
十分な情報提供がなされておらず、社会的サービスを受けていなかった。発症より17年経過し嚥下機能が低下し、口腔からの十分な栄養補給が困難となり、胃ろう造設術を行なうため当院に入院された。これを機にリハビリテーションが介入することとなった。呼吸機能、嚥下機能、認知機能の低下により肺炎発症のリスクが高く、肺炎を予防することが在宅生活を継続できるか否かの重要な項目であると思われた。
家族には症状が進行した際どのような状態になるか主治医から十分な説明がされていなかった。サービス提供にあたり家族の病気の受け入れ準備が不十分であることを踏まえ、細心の注意が必要であった。サービス開始にあたり急激な環境の変化が避けられないため、説明と同意を十分に行い、傾聴しながら対応することとした。
日常生活全般に介助が必要であるが自力歩行が可能であるため、歩行能力を維持し介助量増加を防止する必要があった。全身の関節可動域運動、疲労に応じた負荷での筋力トレーニング、起居動作練習を行なった。
呼吸機能低下が著明で、自己排痰は困難であった。また、嚥下機能低下も進行しており少量の水分や自身の唾液でも誤嚥する危険性があり、肺炎のリスクは非常に高かった。口腔ケアが十分に行えていないため口腔内環境は決していいとは言えず、誤嚥した際の肺炎発症リスクを増加させていた。口腔ケアの家族指導を行い、口腔ケアを頻回に行い口腔内環境が清潔に保つ必要があると考えた。同時に唾液量を減少することができれば肺炎のリスクが低下すると考え、低圧持続吸引器を導入した。また、呼吸機能を維持するため、胸郭可動性ストレッチや呼吸介助を行い、肺内からのコンプライアンスも維持できるようMI-Eを使用した。口腔ケアを行うにあたり、頚部の屈曲拘縮のため開口が十分に行えず、頚部関節可動域制限が阻害因子となった。頚部痛の出現に注意しながら頚部の可動域を維持する必要があった。ポジショニングを行うことで自重での伸展作用を期待したが、臥位保持困難であるためリクライニング車椅子導入を検討した。また、一日のほとんどを椅子座位で過ごしており、褥瘡の発生予防のためクッション導入を検討した。
理学療法は週2回、作業療法は週1回で対応したが、介入から40日経過した後、CO2ナルコーシス、呼吸不全にて死亡した。


【考察】
嚥下機能が低く誤嚥のリスクが高いこと、誤嚥した際に自己喀出できる十分な呼吸機能がないこと、口腔内の清潔が十分に保たれていなかったことから肺炎の発生リスクは高いと考え、肺炎発生予防のプログラムを立案した。結果的には呼吸不全で死亡し、肺炎は発症しなかった。頚部の屈曲拘縮のため疼痛が出現し臥位をとれなかったことが肺炎を起こさなかった理由のひとつとして考えられる。
筋萎縮性側索硬化症で認知機能が低下していることがケアの問題点のひとつとしてあがった。詳細な決定はすべて家族に委ねられたことからも家族の負担は大きかったことが予想される。
発症から17年経過して初めてリハビリテーションスタッフが関わったが、短期間の介入となってしまったために急激な環境変化があり、本人、家族の負担は大きくなってしまったことものと思われる。
早期から介入することで本人、家族への身体的、精神的負担を軽減でき、より長く在宅生活を継続できたのではないかと考える。


【理学療法学研究としての意義】
理学療法士ができることを他職種にも知ってもらうことで地域での情報や意見交換、本人や家族へのサービス提供がより充実することを切に願う。
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© 2010 日本理学療法士協会
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