理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-275
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一般演題(ポスター)
介護予防運動器機能向上サービスを実践する要支援高齢者における徒手的な介入の有無による差異
利用開始から3ヶ月の身体要因、日常生活活動、生活空間の変化
小林 泰喜太田 真英山根 孝一古志野 正丈種田 真吾田中 敬子前田 諒平伊達 祐貴
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抄録
【目的】介護保険法が改正、介護予防を重視したシステムに転換され、介護予防運動器機能向上サービスが導入となり、数年が経過した。当法人も先行研究で知見の得られているトレーニングマシンを用いた低負荷抵抗運動プログラム(以下低負荷トレーニング)を主とし、様々な介護予防運動器機能向上サービスの運動プログラム(以下運動プログラム)を提供している。全国的にはトレーニングマシンやセラバンド等の器具の使用が主流となっているが、介護予防給付の対象者に対しても理学療法士の徒手的な介入が有効であるか検証する必要があると考えた。

【方法】対象は当法人の通所リハビリテーション(2施設)通所介護(1施設)を利用する65歳以上の要支援1、要支援2の利用者55名(男性16名、女性39名)平均年齢は78.4歳、要支援1が17名、要支援2が38名。脳血管疾患による著明な麻痺や、神経筋疾患を有する者、中等度から重度の認知症を有する者は除外し、認知症老人の日常生活自立度において自立からIの者を対象とした。運動器機能向サービスの内容としては理学療法士が立案し実践している運動プログラムを週2回以上定期的、且つ継続的に実践され、全ての検査が可能である対象者とした。低負荷トレーニングを主として毎回60分程度実施した群(以下非徒手介入群)同様に、低負荷トレーニングを主とし、加えて療法士がストレッチング等の徒手的な介入が10分~20分程度、合計毎回60分程度実施した群(以下徒手介入群)について、身体要因、日常生活活動、生活空間との関連について検証した。基本属性として、年齢、性別、要支援に至った要因となる疾患、利用されている介護保険サービス、日常生活活動の評価として、障害老人の日常生活活動指数、生活空間はE-SASにおけるLife-SpaceAssessment(以下LSA)、身体要因として握力、5m通常歩行テスト、開眼片足立ち時間を計測した。解析には対応のあるt検定、Wilcoxonの符号付順位和検定を用い、2群の評価項目ごとに利用開始時と3ヶ月経過時の比較を行った。2群の各項目における変化量の差はマン・ホイットニのU検定を行い、各検定共有意水準は5%とした。

【説明と同意】本研究は当法人の個人情報利用規定に沿い、対象者に対して文書にて説明と同意を得た上で、ヘルシンキ宣言に基づき研究計画と調査を行った。

【結果】非徒手介入群は男性7名、女性19名、平均年齢は82.1歳±12.9歳、徒手介入群は男性7名、女性19名、平均年齢は75.2歳±14.8歳。要支援に至った主要な疾病の内訳は、非徒手介入群は骨折・骨関節疾患50%脳血管疾患30.7%呼吸循環器疾患7.6%その他の疾患11.5%、徒手介入群は骨折・骨関節疾患68.9%脳血管疾患17.2%呼吸循環器疾患10.3%その他の疾患3.4%であった。介護保険サービスの利用状況は非徒手介入群が通所と訪問介護、看護の利用が2名、徒手介入群は6名あり、その他は通所サービスのみの利用が主であった。通所サービスの利用開始時と3ヶ月経過時の比較では全ての項目で2群共に有意に低下している項目は無く、非徒手介入群は5m通常歩行で有意に改善しており(p<0.05)徒手介入群は5m通常歩行、障害老人の日常生活自立度、LSAにおいて有意に改善していた(p<0.05)利用開始時と3ヶ月経過時の2群間の変化量も徒手介入群が有意に改善していた(p<0.05)

【考察】非徒手介入群に比べ、徒手介入群は身体要因だけでなく日常生活活動の障害老人の日常生活自立度や生活空間のLSAでも有意に改善が認められ、2群間の変化量の比較においても有意に徒手介入群が改善していた。今回は利用開始時より3ヶ月と短期間ではあったが、理学療法士が徒手的な介入を行った運動プログラムが有効である可能性が示唆された。一方、対象群の要支援に至った原因疾患は徒手介入群の方が骨折・骨関節疾患が18.7%多く、脳血管疾患は13.5%と少なく、年齢や疾患的な要素を勘案しながら、利用者の要望を踏まえてプログラム内容について決定している現状が考えられた。今回は短期的な効果について限局しており、介護予防本来のいわゆる水際作戦や長期的な運動プログラムとしての妥当性についても、対象者、期間、方法等を含めて追跡調査が必要である。

【理学療法学研究としての意義】要支援、要介護認定基準の見直しにより、以前よりも軽度に認定される者が多くなり、介護予防分野での有効な運動プログラムを作成することが急務となっている。理学療法士の徒手的ストレッチング等の総合的な技術が介護予防分野でも発揮される可能性を統計学的にも示す事が出来た。
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© 2010 日本理学療法士協会
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