理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O1-205
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一般演題(口述)
変形性膝関節症に対するジクロフェナクナトリムを用いたイオントフォレーシスの影響に関する予備的研究
肥田 光正庄本 康治西村 精展吉良 貞伸吉良 貞昭
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抄録

【目的】変形性膝関節症(膝OA)患者の疼痛は,滑膜炎や軟骨下骨の摩耗との関連性が強く指摘されている。膝OAの疼痛に対する薬物療法には非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が広く用いられ,様々な投与形態がある。近年,経皮吸収性の優れたNSAIDsが開発されており,これらが滑膜へ浸透し鎮痛効果が認められたとの先行研究も散見される。一方イオントフォレーシス(IP)は,低電圧の直流電流を用い局所への経皮的な薬剤輸送を促進する治療で,角質層に損傷を与えず薬剤輸送率を改善する。整形外科疾患へのIPは種々の報告が認められるが,IPはステロイドを用いた研究が多く,近年開発された経皮吸収性の優れたNSAIDsを用いてIPを実施した報告はない。そこで今回我々は,予備的研究として両側膝OA3症例にジクロフェナクナトリウムを用いたIPを実施し,その影響を調査した。【方法】症例は両側膝OA3症例(女性:73-77歳)である。症例Aは罹患期間が48-60ヶ月で,腰野らの膝OAグレードは両側2であった。合併症は変形性腰椎症,頚椎椎間板症,便秘症であった。症例Bは罹患期間が120-156ヶ月で,膝OAグレードは両側2であった。合併症は後縦靭帯骨化症(3年前に脊椎固定術),パーキンソン病(Hoehn-Yahr重症度分類2度),腰椎椎間板症であった。症例Cは罹患期間が約36ヶ月で,膝OAグレードは右2左1であった。合併症はパーキンソン病(Hoehn-Yahr重症度分類2),狭心症であった。全症例は経皮鎮痛消炎剤を処方されており,運動療法と物理療法を実施していた。ADLは全症例自立していたが,動作時の膝関節痛が認められた。IPの使用機器はIntelect ADVANCED COMBO(CHATTANOOGA社製)で使用薬剤はジクロフェナクナトリウム(商品名.ボルタレンローション1%)を用いた。ジクロフェナクナトリウムは,IPで経皮吸収性が促進されることが報告されている。ジクロフェナクナトリウムの総投与量は60-80mAminで治療時間は25分とした。電流密度は,患者の耐用性に応じて2.5-3.5mAに設定した。電極は,当該部位の皮膚状態を確認しアルコール綿で清拭後,陰極にジクロフェナクナトリウムを塗付し膝関節内側に,陽極は膝関節外側に配置した。治療中は不快感や疼痛の訴えを逐次確認した。治療期間は2週間で週3回,合計6回実施した。IPの鎮痛効果,炎症抑制効果を検討するため,運動時痛をVisual Analog Scale(VAS)で,圧痛計(京都疼痛研究所製FPメーター)で内側裂隙の圧痛閾値を測定した。また治療に伴うADLの変化を,日本語版膝機能評価動作機能項目(WOMAC)を用いて評価した。筋力はハンドヘルドダイナモミータ(アニマ社製μ-tus F-1)を用い,等尺性膝伸展筋力を測定した。炎症症状の変化は,サーモグラフィ(NEC社製インフラアイ2500)で膝関節の関心領域内最大,平均温度を測定し評価した。治療中は有害事象の有無も確認した。治療期間中は経皮鎮痛消炎剤の使用、運動療法や物理療法は継続し、ADL動作を制限しなかった。【説明と同意】本研究の説明は主治医と理学療法士が行った。IPの方法や予測される効果,副作用などを記載した文書でインフォームドコンセントを行った。本研究に自由意志で参加することを署名で確認した後に治療を開始した。【結果】治療前後の比較では,運動時痛は症例Cを除き改善が得られなかった(症例A;治療前32mm.後54mm.症例B;治療前96mm.後80mm.症例C;治療前92mm.後43mm)。圧痛は症例B(右)を除き改善を認めた(症例A;治療前両側0.5kgf.後右4.0kgf左2.5kgf.症例B;治療前両側1.0kgf.後右0.5kgf左2.0kgf.症例C;治療前両側1.0kgf.後右2.0kgf左1.5kgf)。WOMACや筋力は全症例変化しなかった。膝関節表面温度は,全症例治療後に内側部平均温度の低下を著明に認めた(症例A;右-1.1℃左-0.8℃.症例B;右-0.8℃左-1.6℃.症例C;右-0.5℃左-1.2℃)。IPに伴い症例Aに発疹やかゆみが認められた。主治医へ報告し適切な処置後,治癒した。【考察】IPに伴う運動時痛やADLの改善は十分に認められなかった。これは全症例がADLを制限する併存疾患を有していたこと,また疼痛が慢性化していたことが原因と思われた。しかし圧痛閾値は上昇し,膝関節内側の平均温度は低下した。これは,IPに伴いNSAIDsの経皮吸収性が促進し,滑膜の炎症が軽減した可能性が推察された。治療前に経皮鎮痛消炎剤を処方されていたことを考慮すると,IPは経皮鎮痛消炎剤の単独での使用よりさらに炎症の改善に寄与する可能性が推察された。本研究は,症例数が少なく対照群も設定されていない限界があるため,今後さらに臨床データを蓄積したい。【理学療法学研究としての意義】IPは物理療法と薬剤を組み合わせた治療で,医師との協力の下,今後の疼痛治療において発展する分野であろう。IPは種々の有痛性疾患に実施されているが膝OAに対するIPは実施されていない。本研究の結果は,今後臨床データを蓄積する上での予備的研究として重要であると考える。

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© 2010 日本理学療法士協会
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