抄録
【目的】近年、毎年約1万人の理学療法士が誕生し地域で活躍している。そのため理学療法士の活躍する場は多岐にわたり、在院日数の減少を目指す病院でのアプローチよりも施設および地域での活動が増えている。そこでは維持期および終末期の患者に携わる機会も多い。また,医療多職種において,多くはリハビリテーションとは回復するものに対して行う社会復帰というイメージが強く,養成校在学中の学生においても理学療法士を目指す動機として回復,改善の手助けを使命とする声が多く聞かれる。今回、理学療法士養成校に在学中の学生が終末期に対してどのような印象をもっているか、臨床実習経験群と未経験群での認識に違いがあるのかを調査した。
【方法】本研究に対して説明し書面にて同意を得られた理学療法士養成校に在学中の1年~4年生(男性74名,女性22名)計96名。平均年齢23±5歳。アンケートにて終末期における意識調査を経験群(4年生)、未経験群(1~3年生)に群分けし施行した。終末期の設定条件として「回復の可能性のない,余命数ヶ月と予想された状態」とした。修学状況として1~3学年は臨床実習が未経験であり、学年によって質問項目に履修していない言葉があったため適宜言葉の説明を加えて調査した。
【説明と同意】実施したアンケートは学術的用途に限り使用する旨を伝え,使用への同意が得られた者には直筆にて署名を行った。
【結果】人生の最期を迎える場所はどこが望ましいかという問に対して、自身は経験群・未経験群それぞれ自宅(80%・68%)、わからない(15%・20%)、病院(5%・8%)、施設(0%・4%)の順であった。家族に対しては、それぞれ自宅(60%・65%)、わからない(20%・20%) 、病院(10%・14%)、施設(10%・1%) であった。終末期にリハビリは必要かという問いに対して、関わる必要がある(95%・82%)必要ない(0%・4%)わからない(5%・14%)であった。施行頻度は、両群とも2~3回/週が多く(63%・57%)、次いで1回/週(16%・13%)の順であった。リハビリを施行する時期については、自力歩行(13%・12%)、介助歩行(36%・22%)、車椅子(4%・10%)、端座位(4%・18%)、ベッド上(30%・28%)、その他(13%・10%)であった。必要であると思うリハビリ内容は、拘縮予防(18%・14%)、ポジショニング(12%・14%)、呼吸介助(17%・19%)、移乗・移動動作(8%・9%)、介助方法・福祉用具の助言(10%・6%)、浮腫改善(11%・9%)、疼痛緩和(12%・16%)、精神機能改善(9%・11%)、その他(3%・2%)であった。
【考察】理学療法士養成校の学生に対して終末期におけるアンケート調査から、自身及び家族が最期を迎える場所として自宅が望ましいと答えた学生は全体で71%・60%であった。臨床実習経験群の方が自宅を希望する者が多く施設を望む者はいなかった。終末期医療に携わる必要性は経験群95%、未経験群82.7%といずれも高値を示し、経験群では実際の臨床場面で対応する症例が多岐にわたり、リハビリが施行されていることを認識していたため必要性を理解していたと思われる。しかしながら施行回数は2~3回/週の実施回数でよいとの回答が最も多かった。必要なしと答えた者は未経験群のみで、その理由として「改善の可能性がなければリハビリを行う意味はない。静かに最期を迎えさせてあげるべき」との回答であった。リハビリに対して機能改善=社会復帰という理解が根強く存在しており認識不足が確認された。施行時期に関しては経験群では介助歩行、ベッド上、自力歩行、車椅子・端座位、未経験群ではベッド上、介助歩行、端座位、自力歩行、車椅子の順であった。経験群では、活動レベルが低下した介助歩行レベルとベッド上を開始時期とする傾向を示し、未経験群ではベッド上と介助歩行レベルの順で施行開始時期と認識していた。施行内容については両群ともに差はなく、拘縮予防、呼吸介助、疼痛緩和等を中心に様々な項目に対し必要性を示していた。終末期リハビリの印象として四肢拘縮予防、疼痛緩和、呼吸苦軽減等のベッド上でのアプローチを行うと考えていた。今後,養成校においても終末期医療チームの一員として教育の段階から広い視野を持てるよう助言していきたい。
【理学療法学研究としての意義】理学療法士養成校において理学療法士が終末期患者に関わることに対して、医療チームの一員として教育の段階から広い視野を持つことを目的とする。