理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O1-220
会議情報

一般演題(口述)
職種による「接遇」への意識の相違
精神科内での調査
佐々木 紗映尻引 舞岩井 一正皆川 邦朋阿部 孝之淵上 奈緒子丸山 貴恵平川 淳一
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キーワード: 精神科, 接遇, インシデント
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抄録
【目的】当院は精神科を母体とする病院であるが、精神科疾患に身体合併症を合併した患者を積極的に受け入れ、整形外科医、精神科医、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師、臨床心理士、精神保健福祉士などと共同して診療に当たっている。特に理学療法分野では、インシデント報告は転倒転落が最も多く、接遇トラブルについて注目した研究はあまり例がない。一方で、通常精神科には身体障害を治療するユニットは存在しない場合が多く、精神科スタッフと身体科スタッフの共通言語も希薄であり、お互いの治療内容についても理解が薄い場合がある。そこで今回、精神科内で患者様との間におこる接遇トラブルについての事例傾向について報告すると共に、各職種間の「接遇トラブル」への認識の違いについて考察し、報告する。

【方法】平成19年度から現在までの2年間で業務中に起こった患者様との接遇トラブルについて、リハビリテーション科(PT9名、OT4名、ST1名、助手4名)、精神科作業療法科(OT7名)、心理療法科(臨床心理士3名)、医療相談科(精神保健福祉士7名)にアンケート実施。内容は、患者名とトラブル内容とし、自由回答を筆者らがカテゴリー別に分類し分析を行なった。また、この結果について、各部署から代表者2名が参加し、ディスカッションを行った。

【説明と同意】本研究は当院倫理委員会の審査を受けている。

【結果】回答者は全38名であり、上記をカテゴリー別に分類したところ、「セクハラ」「妄想」「恋愛感情」「脅し」「操作」「依存」「その他」の7項目となった。職員1名当たりの件数が最も多かったのはリハビリテーション科で3.11件であり、次いで精神科作業療法科・心理療法科が0.67件であった。医療相談科は0件であった。ディスカッションでは、「接遇トラブル」への意識の違い、捉え方の違いについて検討された他、件数に差が出たことへの意見交換が行われた。その中で、リハビリ科にトラブル件数が多い理由として、1)接する頻度が多いこと、2)身体接触があること、3)定期的に接すること、4)目標が数値化されて提示されることが多く、患者がストレスを感じやすいことなどが挙げられた。

【考察】リハビリテーション領域、特に理学療法領域ではインシデント・アクシデントについては転倒転落や急変時対応に焦点があり、接遇にまつわるトラブルについてはあまり言及されていない場合が多い。しかしながら、精神科においては、患者自身がコミュニケーションに障害を持っており人間関係の適切な構築が難しい場合があり、接遇トラブルの現状把握、回避は重要であると思われた。今回、アンケートを実施した中で、信頼関係の構築が治療効果の「鍵」として扱われやすいリハビリテーション職種において、接遇トラブルが多かったことに対して、1)接する頻度が多いこと、2)身体接触があること、3)定期的に接すること、4)目標が数値化されて提示されることが多く、患者がストレスを感じやすいことなど、全体として患者との精神的・身体的距離が近いことが理由として挙げられた。一方で、各職種間で「何をトラブルと考えるか」に違いが現れており、結果件数の相違に至ったということも考えられた。また、特に理学療法士やリハビリテーション科助手、言語聴覚士は学生時代にほとんど精神科の患者と接触する機会がないこと、他院でリハビリが困難だった患者が搬送されてくることなどの院外の因子も関わっていると考えられる。
今回ディスカッションを行ったことで、各職種の治療に対するスタンスが互いに明確になり、患者との関係においての位置関係が互いに理解できたことについては、非常に有益であったと考えられる。


【理学療法学研究としての意義】我々医療従事者は、患者との信頼関係構築が治療上非常に重要とされるが、患者の持っている疾患によっては、非常に難しい側面を持っているとも言える。しかしながら、精神科内において各職種がお互いの治療スタンスや患者との距離を把握することで、協力体制を引きやすくなるとも考えられる為、今後の検討材料にしていきたい。また、本研究は、コメディカル以外の他職種、例えば精神科看護職が患者とのトラブルを考察する上でも参考資料たりうると考える。
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© 2010 日本理学療法士協会
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