抄録
【目的】急性期総合病院である当院では、職能資格制度を基本とする人事賃金制度へ転換したのは1986年である。そして2006年から面接制度と人事考課の透明度を上げる目的で新たな取り組みが実施されている。組織としての病院の制度に基づいて、専門職種である療法士の能力開発と人材育成がなされることが期待される。そこで当院の職能資格制度のもと、療法士の教育研修システムがどう位置付けられ、昇格制度によってどうキャリアアップしていくかを紹介し、その課題を考察することが本研究の目的である。
【方法】当院就業規則にある職能資格制度運用細則並びに人事賃金制度ガイドラインを参照し、職能資格制度の概要を紹介する。さらに面接制度と人事考課についてその運用の実際について紹介する。
【説明と同意】紹介した面接制度と人事考課について、参考にさせていただいた職員には、研究の目的を十分説明をし、個人情報の保護に十分配慮した上で同意を得て利用した。
【結果】職能資格制度の資格等級は下位職能段階から定型業務に位置づけられるJ等級、判断指導業務に定義されるS等級、指導監督業務であるE等級、管理業務を担うP等級そして経営管理業務と定義され最上位職能であるM等級に区分されている。各等級には定められた昇格基準があり、それを満たすと定められた研修受講や昇格試験および適正試験等に合格のうえ昇格することになる。
面接制度は、面接者と被面接者が各従業員の業務上の目標設定および育成計画を立てるとともに、業務遂行における能力発揮度、職務への取り組み、能力保有度などを評価することで、面接者と被面接者が一体となって、被面接者の育成を目指すことを目的としている。被面接者の当該年度の業務目標を職務基準として設定する目標面接は4月に実施され、上半期の職務基準の遂行結果を踏まえ、下半期の課題設定ならびに業務目標の変更修正を中間面接として10月に実施し、その結果は人事考課の参考になる。
人事考課の内容は、期初に設定した職務基準の遂行度を評価する業績評価とコンピテンシーに基づいて設定された職務行動について評価する行動評価である。従業員は業績目標を4~5件、行動目標を2~3件設定する。行動目標は9つの求められるコンピテンシーから各等級にふさわしい目標を設定する。各目標の作業ウエイトは等級により異なる。J等級では業績目標40%であり行動目標60%で後者が重視されている。また、P等級では100%業績が求められ、E等級までに9つのコンピテンシーを確立することが求められている。
当院は2009年度常勤理学療法士が12名、作業療法士が3名、言語聴覚士が2名在籍し、正職員16名が人事考課の対象である。当科では職位上チーフが各療法士を面接し、その結果を基にマネージャーが二次考課を行っている。病院の事業計画に基づいてコ・メディカル部門の目標が設定され、この目標に沿って各部署の目標が設定される。各療法士は部署目標を達成すべくそれぞれの職制に相当する業務を規定した職能要件書に基づいて個人の業務目標として設定する。具体的には、目標単位数の設定や医療安全についての数値目標、科内診療補助業務や院内委員会活動を目標として設定している。また行動目標では、新たな技術の習得といった挑戦意欲や報告連絡相談の徹底といったチームワーク、プロジェクトの実施といったリーダーシップを相応する等級に合致して設定している。これらの目標達成を支援するためのフォローアップは非定期的に実施されている。
【考察】本職能資格制度は公正に評価された職務遂行能力にみあう職能等級への格付けを通じ、従業員の適正な処遇を行うとともに、従業員自らの能力開発と人材育成を促進する枠組みを提供している。この制度の課題は、病院事業計画に基づいたそれぞれ資格等級に相応した業績目標が設定できているか、設定された目標を達成するためにどう支援していくかである。公正な目標面接や人事考課がなさせるためには管理側の教育、評価が必須である。また各療法士の育成すべきコンピテンシーを教育的配慮のもとに設定できているか、さらにコンピテンシーを養う教育研修プログラムを職種横断で企画することが今後の課題である。
【理学療法学研究としての意義】医療技術が厳しく吟味される中、理学療法士が大量に輩出される時代に入り、施設の管理運営がますます重要になってきている。適正な処遇の上で持続可能な経営のもと、能力開発と人材育成を促進することが望まれている。今後医療を取り巻く環境の変化に応じて職能資格制度が改編されることが予想され、コ・メディカル部門もその流れにそって質の高い理学療法を提供できるような管理運営手法を確立していくことが求められている。