理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-323
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一般演題(ポスター)
臨床実習における実習指導者と学生の合否判定基準の相違
舩山 貴子武田 貴好長沼 誠田中 基隆高橋 玲子福田 守杉原 敏道
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抄録

【目的】
本校における臨床実習では、日本理学療法士協会発行の臨床実習教育の手引きを参考に、12項目からなる評価リストに基づいて実習指導者に学生評価を依頼している。仮にこの12項目にいくつかの不合格項目があった場合でも、今後の学内指導において改善の見込みがあると考えられれば、総合判定として臨床実習は合格と判定される場合もある。また、本校では臨床実習の合否とは別に、学生に対し自己を正しく認識させる目的で、同様の評価リストに基づき隔週毎に自己評価を行わせている。今回、臨床実習の合否判定において、実習指導者と学生は評価リストの12項目中どの項目を重視しているのか検討したので報告する。
【方法】
対象は、本校理学療法学科11期生(4学年)の後期臨床理学療法実習(以下、後期実習)で、学生39名(男性21名、女性18名、平均年齢22.6±3.0歳)および実習指導者39名(平均経験年数12.2±7.64年)であった。評価リストは1.情意面、2.情報収集、検査・測定、3.障害構造の把握、4.ゴール設定、5.問題点抽出、6.プログラム設定、7.リスク管理、8.運動療法、9.物理療法、10.ADL指導、11.ゴール・問題点・プログラムの修正、12.記録・報告の12項目である。実習指導者には各項目におけるVisual Analogue Scale(VAS)での評価と、最終的な臨床実習の合否判定を依頼した。また、学生には同様の評価リストに基づき、実習開始から最終週まで隔週毎に自己評価を実施させた。実習指導者に依頼した合否判定と、学生の自己評価における合否判定を従属変数とし、実習指導者と学生それぞれで、12項目の評価を独立変数として多重ロジスティック回帰分析を行った。学生の自己評価は最終週のデータを採用し、統計解析はStat Flex for Windowsを用いて行った。
【説明と同意】
本研究にあたり、対象者に主旨を説明し同意を得た。
【結果】
独立変数として用いた12項目において、実習指導者では8.運動療法、9.物理療法、10.ADL指導で、学生では8.運動療法と9.物理療法で多重共線性が見られたので、それぞれにおいてそれらの項目を1つにして解析を行った。その結果、臨床実習の合否に影響をおよぼす因子として、実習指導者は12.記録・報告、学生では8.運動療法(9.物理療法)が変数として選択された(p<0.05)。
【考察】
臨床実習の合否は、知識に代表される認知領域、興味や関心、態度といった情意領域、技術や技能に代表される精神運動領域の種々の要素が影響し合っているといわれ、評価リストもこれらを網羅した12項目から構成されている。今回の結果では、実習指導者の総合的な合否判定において、記録や報告の可否が大きな影響を与えていることが明らかとなった。一方、自己を不合格と判断する学生は、運動療法や物理療法などの精神運動領域に関して低い自己評価となっていた。以上のことから実習指導者は、学生の到達度の判定基準において、日々の症例記録や報告書などの記録内容と口頭も含めた報告の可否を重視していることが示唆された。しかし、自己を不合格と判断する学生は、自らが実施した運動療法や物理療法などの治療技術が未熟であるとの認識が強く、両者に相違が認められた。ただし、今回の結果はあくまで後期実習に限った結果であるため、今後は各実習における傾向も併せて検討し、より効果的な学内教育へと反映させていきたいと考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究から、実習指導者が捉えている問題点を学生が自己の課題として認識できていない現状が伺えた。臨床実習の合否判定基準において、実習指導者と学生間の乖離が明確になったことにより、実習で不合格となる学生の問題点を解決する一助になるものと考える。

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© 2010 日本理学療法士協会
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