理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-341
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一般演題(ポスター)
当院理学療法科における医療事故・ヒヤリハット分析
三谷 有司奥山 昌弘伊藤 隆横串 算敏峯廻 攻守
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抄録
【目的】リハビリテーション実施中の医療事故・ヒヤリハットについて、その背景や状況を分析し、今後の事故予防に役立てることを目的とする。
【方法】対象は2003年4月~2009年9月までに当院理学療法科で起きた医療事故(インシデント事故・アクシデント事故)60例。2006年6月~2009年9月までに報告のあったヒヤリハット34例。分析内容は医療事故・ヒヤリハットの1)内訳、2)経験年数、3)発生時の内容・状況、4)年度別の発生率・月別の平均発生件数を検討した。さらに5)ヒヤリハットにおける当事者原因を16項目に分類し調査した。統計学的検定にはX2検定を使用し、有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】当院では入院時に医療事故研究に関して御本人、その御家族に説明し、医療事故報告書を元に個人が特定されないことを条件として院内外へ発表することに同意を得ている。
【結果】1)医療事故の内訳はアクシデント15例、インシデント45例。うち転倒・転落事故33例(55.0%)、皮膚損傷8例(13.3%)、チューブライン事故5例(8.3%)、打撲4例(6.7%)、爪剥離2例(3.4%)であった。ヒヤリハットでは転倒・転落未遂に関わる事例が27件(79.4%)であったが皮膚損傷等に関わる報告は0件であった。2)経験年数別では1・2年目のPTが起こした医療事故は34件(59.6%)(P<0.01)、ヒヤリハットは28件(82.4%)を占め有意に高かった(P<0.01)。3)医療事故では立位・歩行訓練中の発生が多かった。また、リハ休憩中に起こすヒヤリハットが15件(44.1%)と最多であった(P<0.01)。4) 2007年度以降医療事故・ヒヤリハットともに減少してきたが皮膚損傷・チューブライン事故が増加傾向であった。医療事故の月別平均発生件数は上半期・3月において多発していた。ヒヤリハットでは5・11月において多発している傾向であった。5)「見込み違い」によるヒヤリハットが8件(23.5%)と最多であり、うち7件は1、2年目PTによるものであった。
【考察】スタッフ数、医療事故増加に伴い2007年度以降の教育プログラムの見直しで転倒・転落事故は減少したと考えられたが、2009年度は再び増加傾向にあった。フォローアップ研修後は医療事故件数の減少が見られるものの継続的な研修が実施されていないことや1対1による指導の少なさが要因と考えられた。皮膚損傷やチューブライン事故の増加については患者の重度化によるものと同時に気付きの段階のヒヤリハットの報告が全くなされていない事が要因と推測された。ハインリッヒの法則では「1件の重大災害が発生する背景に、29件の軽傷事故と300件のヒヤリハットがある」と述べられている。ただ、特に経験年数の若いスタッフは技術的に未熟なことに加え、間違った予測や判断、気づかないといった「ヒューマンエラー」を起こす傾向にあることも今回の研究において示唆されたので、些細な事例においても報告を促していき科内にて周知していくことと、常に事故内容の変化に伴う状況判断や予測も含めた技術指導と研修時期を考慮しながらフォローアップを実施していくことが必要と考えられた。
【理学療法学研究としての意義】医療安全は医療の質に関わる重要な課題であり、患者への適正な医療の提供とその過程における安全確保は医療の基本である。また、リスクマネジメントは事象の発生防止だけではなく、発生時や発生後の一連の取り組みであり、医療の質の確保を通じて組織を損失から守ることを目的としている。近年、理学療法士が急増している現状であり、当院でも3年目以下のセラピストが半数を占めている。医療事故研究を通じて特に経験年数の若いセラピストに対しての教育の一環としたい。
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© 2010 日本理学療法士協会
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