抄録
【目的】医療者にとって、コミュニケーション技術は重要な能力として注目されている。コミュニケーション技術は、あらゆるリハビリテーション場面に共通する基本的なリハビリテーション技術の一つとして捉えることができる。理学療法における臨床実習は、患者との関係を基盤に学習が展開し、段階的に進められている。とりわけ、患者との相互関係の中で成立する実習でのコミュニケーション技術の学習は重要である。そこで、コミュニケーション技術の育成にあたっては、学生がどのようなコミュニケーション技術を、実習で体験しているのかを明らかにする必要があり、本研究を行った。
【方法】調査は、自由記載形式のアンケートで、K専門学校理学療法学科に所属する学生(1年生36人、2年生35人、3年生31人)を対象に、平成20年3月10日に実施した。調査内容は、理学療法学生と受持ち患者とのコミュニケーションがうまくいった要因、コミュニケーションがうまくいかなかった要因、コミュニケーション技術の改善点についてである。本稿では、コミュニケーション技術の改善点について分析し報告する。分析方法は、Burnardが開発した質的研究を分析するプロセスを用いた。コード化したものをサブカテゴリ、表題の命名をカテゴリとして表した。また、一意味を持つものを一件として記述の件数を求めた。
【説明と同意】倫理的配慮としては、本調査の目的、対象者のプライバシーの保護、調査協力は任意であること、データは研究目的以外には使用しないことを口頭で説明し、協力の意思を表明した学生のみを対象とした。
【結果】調査票の回収は、1年生36人、2年生35人、3年生31人の合計102人であった。男性67人、女性35人、就職経験有り20人、無し81人、未記入1人であった。平均年齢は、22.15歳であった。コミュニケーション技術の改善点に記述されていた意見を文脈化すると、1年生54件、2年生54件、3年生45件の記載があった。なお、カテゴリは『 』、サブカテゴリは「 」で表した。3学年に共通したカテゴリとして『話し方』64件(41.8%)、『自分の態度』56件(36.6%)、『知識』23件(15%)を抽出できた。これに加え、3年生では『感性』、2年生では『関係作り』『非言語的コミュニケーション』『状況把握』『自己研鑽』、1年生で『非言語的コミュニケーション』のカテゴリが抽出できた。各学年ごとに最も多かったカテゴリは、1年生で『話し方』25件(46.3%)、2年生で『話し方』27件(50%)、3年生で『自分の態度』27件(60%)であった。3学年に共通するサブカテゴリは、『話し方』の「質問の仕方」「明瞭な言葉使い」「傾聴」、『自分の態度』の「表情と態度の表出」、『知識』の「知識の蓄積」であった。各学年で特徴的なサブカテゴリは、『話し方』では、1年生と2年生で「話題の意図的拡大」「患者主体の質問」、2年生で「適切な言葉使い」、3年生で「患者主体の会話内容」が抽出された。『自分の態度』では、1年生で「学生としての態度」、2年生と3年生で「緊張の克服」、3年生で「自己開示」「学生としての姿勢」「自信の獲得」が抽出された。『知識』では、1年生と2年生で「障害像に合わせた関わり」、3年生で「情報の収集」が抽出された。
【考察】コミュニケーション技術の改善については、自分の話し方や態度、患者の話を聞く時の態度、一般的な社会的知識や医学的知識などについても改善を行ったことが窺われる。知識の割合は、2年生3年生で低下し、一方学生の態度については学年が上がるにつれて割合が高くなっており、多様な話し方、非言語的コミュニケーションの使用、自分の態度、裏付けとなる知識を身につける必要性を感じていたことが窺われる。自己の課題としては、1年生では自己の世界観を広げるべく知識の蓄積や質問の仕方、話題を意図的に広げるという傾向がみられるが、2年生になると患者との関係作りを考え、患者の状況把握や理学療法技術の向上に努めていることが窺える。3年生になると専門職としての自覚も芽生え、その場に応じた質問の方法や専門的立場からの情報提供、患者に自分の感情をどのように伝えるとよいか、患者と共に問題を解決するような話し方などである。これらより学生は、コミュニケーション技術を学生時代から段階的に習得していると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】臨床実習において指導者から指摘される代表的な事項に、コミュニケーション能力不足がある。また、このような学生に医療事故を起こしやすいという報告もある。これらのことより、学生がどのようなコミュニケーション技術を臨床実習で体験しているかを明らかにし、コミュニケーション技術の教育内容の精選や効果的な教育方略の検討に意義があると考える。